2017 Fiscal Year Research-status Report
経験価値ブランディングと口コミ形成による脱コモディティ化戦略に関する実証研究
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16K03858
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
白石 弘幸 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (60242707)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 小松製作所 / 関西電力 / 三菱重工業 / 口コミ / ホスピタリティ / 訪問推奨 / 環境配慮型製品 / コーポレートブランド |
Outline of Annual Research Achievements |
小松製作所(コマツ)が石川県小松市に設置している「こまつの杜」、関西電力が運営している福井県三方郡美浜町丹生の「美浜原子力PRセンター」、同じく関西電力の施設で福井県大飯郡高浜町青戸に立地する「若狭たかはまエルどらんど」、三菱重工業が神奈川県横浜市西区で運営している「三菱みなとみらい技術館」を訪問し調査を行った。調査においては設置の趣旨と経緯、施設のコンセプト、施設の規模と運営に当たっている人員、運営上の方針、展示コンテンツの特徴、提供されている体験型プログラムの内容等について見学と実地体験および資料収集を行った。また施設来場を契機にしたコーポレートブランドを含む口コミの形成状況を「トリップアドバイザー」で調べた。 こまつの杜のコンセプトは「地域社会と一緒になり子供たちを育む場所」である。里山ゾーン、小川ゾーン、たんぼと畑、しばふの広場等があり、里山ゾーンではコマツOBを講師として自然観察会や里山自然教室も行われている。口コミには訪問推奨に重点を置いたものが多い。 関西電力の美浜原子力PRセンター、若狭たかはまエルどらんどでは、本社や発電所における環境対策等のCSR活動を紹介・訴求している。また施設自らも発電のしくみや電気に関する学びの提供、地元市町村のPRを行い、CSR遂行と社会貢献活動を実践している。学びの提供は、教育・啓蒙とアミューズメント(アトラクション)的な体験との融合という性格が強い。非日常性とホスピタリティがある空間で楽しく体験しながら学べるというところに、その特徴がある。それが好意的な口コミ形成に繋がっているという知見を得た。 三菱重工業の三菱みなとみらい技術館の場合、新型ジェット機MRJが環境配慮型製品のシンボル的役割を果たしている。この施設では、MRJ操縦の疑似体験が三菱重工というコーポレートブランドを含む活発な口コミ形成の契機になっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の主要問題である「脱コモディティ化を図るためのブランディングが体験型施設でどのように行われているか」を解明するために、小松製作所の「こまつの杜」、関西電力の「美浜原子力PRセンター」と「若狭たかはまエルどらんど」、三菱重工業の「三菱みなとみらい技術館」を現地調査した。その上でコーポレートブランドを含む口コミの形成が活発となりブランディングが推進されるプロセスや要件に関し三つのことを解明した。さらにこれらのことが電力会社等にも当てはまることを明らかにできた。 第一に、環境対策上の取り組みと環境配慮(調和)型製品に関する紹介・訴求を行う空間として、企業ミュージアム等の体験型施設は効果的である。沿革や事業拠点の展開状況、創業者の生い立ちに関する展示は来場者にとり、退屈だったり自慢話と誤解されがちで、体験型施設で企業イメージを良くする際の素材・プラットフォームとしてはこれら会社プロフィールや創業者よりも、環境対策や環境配慮型製品の方が有効である。地球温暖化や環境破壊が深刻な問題となっている今日、環境保護、環境負荷軽減は展示やアトラクション(コンテンツ)の素材として受け入れられやすく、これらとの親和性も高い。 第二に、体験型施設における展示コンテンツと学びの提供では、環境負荷軽減の必要性と自社のとっている環境対策が子供にもわかりやすいように説明され伝えられなければならない。こういう取り組みが潜在的ユーザーに対する自社ブランドの刷り込みにつながる。将来における環境保護の担い手を育成することにもなり、これは企業の社会的責任遂行、CSRの観点でも意義が大きい。 第三に、CSRの遂行と社会貢献およびこれらの訴求には、業種に起因、あるいは過去の不祥事に由来するマイナスの企業イメージを払拭・緩和する効果がある。これはCSR遂行(社会貢献)のウォッシング効果と呼ぶことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
CSRの遂行と社会貢献およびこれらの訴求には、業種に起因、あるいは過去の不祥事に由来するマイナスの企業イメージを払拭・緩和する効果があることが明らかになったので、今後は環境対策の過大な紹介・訴求または見せかけ的な環境報告、いわゆるグリーンウォッシュと区別されるこのような企業イメージのウォッシング効果についてより深く追究する予定である。 そのようなことから今後は、環境汚染イメージがあったり、不祥事や大規模事故により対外的イメージ上「逆風」にさらされている業種の企業が運営する体験型施設を中心に調査を行ない、どのような展示コンテンツと体験プログラムにより、そのようなマイナスイメージが払拭され、コーポーレートブランドを含む肯定的な口コミが発信されているかを調べたい。 すなわちそういう企業は現在、自社と業界のイメージに敏感ないし神経質になっており、その維持と向上、そのための公衆との関係強化や情報開示の必要性を特に強く認識しているはずである。仮に業界構造が寡占的・地域独占的な体制で商品販売へのマイナス影響は限定的であったとしても、労働の需給が逼迫している状況で大学生等の求職者側における企業イメージ、業界イメージが悪いと、次代の経営を担う人材を確保できないからである。したがって体験型施設におけるブランディング活動も綿密、積極的に行っていると推定される。 このような単独の体験型施設を通じたブランディング活動に加え、環境対策技術や環境経営に関する取り組みを紹介する集合型施設のブースにおける当該活動との比較も行いたい。そのような集合型施設の調査対象として、京橋環境ステーション(東京都京橋3丁目1-1)と大阪環境産業振興センターATCグリーンエコプラザ(大阪市住之江区南港北2丁目1-10)を取り上げ、現地調査する予定である。単独施設と集合型施設ブースにおける運用上の要点に関する相違も探りたい。
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