2016 Fiscal Year Research-status Report
日本的労働環境において多文化チームを活用するリーダーシップ・モデルの構築
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16K03886
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
石黒 武人 順天堂大学, 国際教養学部, 准教授 (90527962)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 移動性の高い思考 / メンバー尊重型の行動 / 寛容型の情動 / 制限付きのダイバーシティの促進 / 日本的労働環境との緩衝体 / 仕事と個人の組み合わせに配慮 / 二重性や矛盾の許容 / 認知的複雑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本国内の多文化チームで活動する日本人リーダーが持つ思考プロセスを外在化し、リーダーが現場で経験する諸問題および彼らが必要とするコンピテンシーを明らかにし、そのモデルを構築することである。その目的に沿って、初年度は、1年目の研究実施計画で予定した人数(5名)より多い7名の調査協力者へそれぞれ2,3回のインタビューを実施することができた。また、実施計画どおり、社会学的研究法(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)を用いてデータを分析・解釈したところ、計画時の予想に反し、調査協力者たちは多文化チームを大きな問題なく機能させているリーダーたちであることこがわかった。そこで、モデルの力点を修正し、多様な文化的背景を持つメンバーが所属する「多文化チームを円滑に運営するリーダーたち」(研究職の課長5名、営業職の部長2名)の思考を外在化し、その特徴を示す暫定モデルを策定した。モデルは、「移動性の高い認知」、「寛容型の情動」、「メンバー尊重型の行動」ならびに「制限付きのダイバーシティの促進」という大きく4つの思考パターンで構成され、それぞれのパターンの詳細を示すことができた。たとえば、「移動性の高い認知」として、リーダーたちは、国籍・民族などの集団属性に基づくメンバー理解をしたかと思えば、集団属性を脇において個人に着目してメンバーを理解するなど、メンバーの理解おいて柔軟に視点を移動して思考するというコンピテンシーを備えていることがわかった。その思考と「メンバー尊重型の行動」が連動し、メンバーに応じてコミュニケーション・スタイルを切り替えていることもわかった。今回2つの職種(研究職と営業職)のリーダーを対象としたため、2つの暫定モデルを構築し、それぞれ学会で発表した。以上のように、実施計画どおり、暫定モデルを構築し、リーダーの重要なコンピテンシーを示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、1)当初の研究実施計画より2名多い人数にインタビューを実施できた点、つぎに、2)予定どおり暫定モデルを作成できた点、さらには、3)社会学のデータ分析方法に他分野(談話分析)の分析概念を組み合わせるマルチメソッドを採用し、その結果、分析・解釈の精緻化が図れた点は評価できる。また、2つの職種のリーダーを扱い、2つの暫定モデルを作成し、そのモデルをそれぞれ学会で発表した際には、研究者のみならず、企業の人事関係者やコンサルタントの方々からも関心を持っていただいた点は、将来的な本研究の社会的な還元・応用という観点からも評価できる。 一方で、2つの職種の暫定モデルをそれぞれ精緻化する作業や、両者を統合したより抽象度が高く、汎用性があるモデルの作成に向けて今後作業を進めるという課題が明確になった。また、もともと現場の日本人リーダーが多数の問題を抱えていることを前提にフィールド調査に入ったが、偶然にも、今回のインタビュー・データでは、すべての対象者が、むしろ多文化チームをうまく機能させているリーダーであったため、この新たな展開に対応する必要があり、力点を「問題群とそれらに対応するコンピテンシー」から問題が少ない「有能なリーダーの認知的コンピテンシー」を明らかにすることに置き直した(とはいえ、もちろん、リーダーたちも日本的労働環境が待つ問題点は認識しており、彼等が認識している問題群も概念化できたことは評価できる)。こうした予想外の結果は質的研究の利点ともいえるもので、今後もこの方向性で進めていきたい。実際に、日本国内で活動する多文化チームの有能な日本人リーダーがどのように思考しているのかを明らかにした学術的研究は管見の限り見当たらず、本研究の学術的意義ひいては社会的意義は大きいと考えられる。以上のことから、研究実施計画時の予想に反する点がありながらも、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策としては、1年目の研究成果に基づき、「有能なリーダーの認知的コンピテンシー」、いいかえれば、「思考過程の外在化」を行っていきたい。そのため、日本国内の多文化チームの運営を比較的うまく進めているリーダーに焦点を当てて、インタビューを実施する必要がある。ただし、日本人リーダーの問題点が多く指摘されてきた既存の先行研究の成果から推論できるように、多文化チームの運営をうまく行っている日本人リーダーの絶対数が少ないと考えられ、調査協力者を探すうえで難しさがある。そのため、大学の研究協力推進戦略センターや個人的な企業人とのネットワークを活用して、本年度のできるだけ早い時期に、研究実施計画どおりの調査協力者5名に協力を取り付け、インタビュー調査を進めたい。 一方で、上記のような有能なリーダーから調査協力が得られない場合は、当初の計画どおり、多くの問題を抱えるリーダーにもインタビューを実施し、日本人リーダーが多文化チームで直面する問題群とその背景、さらには諸問題に対応するうえで必要なコンピテンシーを究明し、それらを図示するモデルの構築を試みる。 上記のように、問題群とそれらに対応するコンピテンシーが示された場合には、1年目研究成果である有能なリーダーの認知的コンピテンシーとの関係を精査し、包括的なモデルを作成するか、異なる複数のモデルを作成するか判断したい。
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Causes of Carryover |
所属大学とインタビュー調査をした企業とが研究協力で合意していたため、当初研究実施計画において予定していた調査協力者への謝金を支払う必要がなくなったことから、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額(84,130円)は、翌年度のインタビュー謝金、学会発表旅費およびインタビュー調査の旅費のうち、インタビュー調査の旅費ならびに当該年度の予定より多くのインタビューをできた場合の謝金に当てる計画である。また、可能であれば、2年目までの研究の簡易報告書が作成できれば、それらを作成し、調査協力者へ郵送する費用に当てたい。
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Remarks |
科学研究費助成による方法論論文をResearchmapにて閲覧できるように掲載いたしました。
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