2016 Fiscal Year Research-status Report
グループ経営における「戦略不全」に関する研究-日独米比較を通じて-
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16K03892
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
高橋 宏幸 中央大学, 経済学部, 教授 (70104718)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 英孝 中央大学, 総合政策学部, 准教授 (90318759)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 統一的指揮権 / 戦略的コンツェルン / ドイツ・コンツェルン法 / 契約コンツェルン / 事実上のコンツェルン / 兼任取締役 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドイツのグループ経営、すなわちコンツェルンにおけるグループ力の源泉を解明するために「統一的指揮権」についての制度的意義について分析した。コンツェルンすなわちグループ経営価値の最大化を追求するコンツェルン戦略の実施にとって、この統一的指揮権の果たす役割は大きい。統一的指揮権は、同一グループ内・法人間横断的な支配・従属関係における支配の貫徹であるのに対し、同一企業境界内での経営管理職能としての指揮機能とは截然と区別されなければならない。法人が独立した他の法人を指揮しあたかも経済的に一つの纏まった経済的単位として行動するのが、コンツェルンであり、戦略的行動が際立っているのが戦略的コンツェルンである。 このコンツェルンでは、契約コンツェルンにおいて統一的指揮権による支配・従属の指揮が貫徹するのに対し、事実上のコンツェルンでは必ずしもそのようにはなっていない。後者は支配が弾力的であるが、支配の貫徹性において不安定性を残している。そこに、グループ内の兼任取締役制度が浮上してくる。この兼任取締役は統一的指揮権を補完・強化するという機能を持つ。特に、戦略的に行動する場合、コンツェルン法による損失補償の規定と並んで大きな意義を有する。 これに対して、アメリカの兼任取締役は事情を異にする。あくまでも株主の利益の擁護が第一義的であったし、今日においてはそれがコーポレート・ガバンンスという形をとり、独立取締役という社外取締役を制度的に嵌め込むことで徹底化kされている。こうした、ドイツとアメリカとでの兼任取締役の違いは、企業の本質的な部分にも関連してくる。そこで、ドイツに加えてアメリカにおける兼任取締役の状況を省察するために、ドイツ並びにアメリカにおける兼任取締役の研究にも検討を加えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度に予定されていた日本のグループ経営に関する先行研究の集中的検討と資料収集の実施が遅れている。それに代えて、ドイツのコンツェルンにおける資料収集並びに研究成果の分析は予定通り進んでいる。ドイツ側の研究者との意見交換をはじめとした研究調整は今後に残されている。ドイツ・コンツェルン研究ではホールディング型コンツェルンかどうかであるより、契約コンツェルンであるか、事実上のコンツェルンであるかの違いの方が大きな意味を持っている。このことを前提として、契約コンツェルンの場合と事実上のコンツェルンの場合に区分してコンツェルンの戦略的行動における問題点を法制度上並びに経営経済的制度の両面から検討を加えた。その際、コンツェルンの本質にかかわる「統一的指揮権」に遡って、コンツェルン内における親会社と子会社との支配・服従の貫徹についてあらためて多くの研究成果によりながら検討を加えた。さらにこのコンツェルンにおける支配・服従の貫徹にとって大きな役割を担っている兼任取締役の問題についても前倒し的に研究を進めた。 このコンツェルン問題での兼任取締役は同一コンツェルン内、すなわち同一グループ内・法人間横断的な支配・従属関係という関係で表現されるものが中心的であるのに対し、アメリカではもっぱら非同一グループにおける法人間横断的な関係で、株主利益の擁護を、第一義的なものとするものであった。このアメリカにおける兼任取締役の歴史は旧く、普及の拡大に伴ってその意義も多様化し、兼任取締役研究の進展に伴い様々なアプローチと解釈が試みられようになってきている。そこで、ドイツとアメリカの兼任取締役について比較研究を行うことの必要性を感じ、ドイツの研究に加えてアメリカの兼任取締役の研究について省察した。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカにおける兼任取締役の意義の多様化、兼任取締役研究についての様々なアプローチと解釈について整理を進め、ドイツとの比較研究を実施する。その際、本来平成28年度に予定されていた日本のグループ経営に関する先行研究の集中的検討と資料収集の実施を、平成29年度に実施する。これによって、ドイツ、アメリカそして日本におけるグループ経営の国際比較と兼任取締役に関する国際比較の実施が可能となる。これによって各国におけるグループ経営の本質が明らかにされ、グループ経営の戦略性とそこでの生じる問題とその解決に向けた取り組みが提示されよう。ドイツ・コンツェルンが何故、戦略的であり得るのかという問題の根底に、ドイツ株式法法わけてもドイツ・コンツェルン法という制度上の問題があることを析出し、日本の法改正に対し、経営経済学的視点からの提言を行う。 さらに、近年のグループ経営の実態を把握するために、平成29年にアンケート調査を実施する。時間の関係で、日本とアメリカないしドイツの2か国に限定し、残りは平成30年度に回すことを考えている。支配契約の無い日本のグループ経営と支配契約のあるドイツ、そして純粋持ち株会社型のグループ経営を採用するドイツ、日本とそうではないアメリカの場合とが際立たされる。加えて、共通する株式会社形態のもとで従業員志向的な経営かそれとも株主志向的かという違いが、コーポレイト・ガバナンスの在り方、さらに兼任取締役の意味付けにも多大な影響を及ぼしていることを導き出すことにする。それは同時に、純粋持ち株会社形態のグループ経営の下に、株主志向的な経営をしている日本企業が戦略性を持たず、株主利益の擁護を第一義的なものとする社外取締役をもって事足れりとしている姿を彷彿させる。戦略不全に陥った日本企業をいかに立て直すかのヒントが ドイツ・コンツェルンによって暗示されよう。
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Causes of Carryover |
217年夏期にドイツで資料収集を実施し、予定通り作業を進めることができたが、その整理に予定以上の時間がかかってしまったため、アンケート調査のまで手が回らなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度に予定していたわが国における純粋持ち株会社を中心としたグループ経営のアンケート調査を実施する予定である。また、2018年1月にアメリカでの資料収集を行ったが、時間不足で作業を中断してきている。この作業を2018年度中に再開の予定。
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