2018 Fiscal Year Research-status Report
医療・医薬・介護分野の機器・ロボットの国際競争力をもたらす技術・製品開発プロセス
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16K03893
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
亀岡 京子 東海大学, 政治経済学部, 教授 (80589614)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ユーザーイノベーション / プロフェッショナルユーザー / 医療機器 / 介護機器 / 製品開発プロセス / オープンイノベーション |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、医療機器メーカーや介護機器メーカーの開発者、さらには、それらの製品ユーザーに製品開発の流れに関して聞き取り調査を実施した。これらはユーザーが製品開発に大きな役割を果たしている事例である。 今回調査した医療機器メーカーの場合、ユーザーとは手術の際にその医療機器を使用するプロフェッショナルユーザーである。だが、彼ら・彼女らは単なるユーザーではない。時として、現状の製品に対して何らかの改善のアイディアも持つ場合がある。手術をより効率的・効果的に実施できる、つまり、手術時間の短縮や手数の削減などを実現できるような既存製品への改善、または既存製品が存在しないため、新たな製品のアイディアを提供することもある。ただし、医師がそのアイディアをメーカーに伝えても、メーカーだけで対応することは困難な場合がある。特に大規模な製品開発部門を持たない中小企業であればなおさらである。そのような場合に、医師のニーズを具現化し、機能を明示して図面にも形状にも落とし込めるのは医工学研究者である。メーカーと実際に協業してモノづくりを可能にする立場を担う。今回は、その一連の流れを担当する人々に製品開発プロセスやコラボレーションの現状をインタビューできた。 また、車椅子メーカーでありながら、製品カテゴリーとして競技用車椅子を作っている企業にも調査を実施した。上述の医療機器メーカーとの共通点は、ユーザーのアイディアやフィードバックが製品開発を促進させる重要な要因になっていることである。 両社ともに中小企業でありながら、ニッチ市場において高いマーケットシェアを実現している。企業の競争力の源泉となる製品開発能力は、自社でのみ構築するのではなく、外部からの知識や情報をインプットしながら競争力を構築させていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は最終年度であり、事例研究を行うために医療機器メーカーと車椅子メーカーに聞き取り調査を実施した。ただし、本研究の一つの目的であった国際競争力の構築については、調査が難しかった。その理由として、これまでに調査した企業が中小企業であったり、またニッチ市場の製品であるため輸出を行っていないということもあった。また、ユーザーが外国人の場合、日本に個人レベルでその製品を購入するといった特殊事情もあった。 また、事例が先行していて理論化が難しいという問題にも直面している。それは、この医療機器・ロボットおよび介護機器・ロボットを取り上げた申請者のみならず、Health Care分野の研究者の共通認識であることが分かった。それが確認できたのは、平成30年8月に経営学領域ではおそらく最大の学会であるAcademy of Managementに参加し、Health Care Managementの研究者が集まるセッションで意見交換をした時のことである。研究のアプローチが大きく異なる以前に、disciplineが様々であり、米国でさえ統一した議論のベースが整っていないということを聞いた。 従って、先行研究のレビューに時間がかかり、フレームワークがなかなか定まらないために理論化に遅れが出ているのが現状である。そのため、定性分析の手法を単なるケーススタディだけでなく、NVivoのような定性分析ツールを用い、何らかの手がかりを得る事を考えている。また、これまで、オープンイノベーション領域の先行研究や知見を活かしながら、理論化を考えてきたため、これらの枠組みの中でHealth Careの事例をどのように分析していくかを引き続き、海外の学会に参加しながら検討していく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究を進めていく観点は2つあると考える。まず一つ目の国際競争力という観点は、製品によって考慮するか否かを考えることにする。医療機器の中でも世界市場で製品カテゴリーではトップリーダーである日本企業も確かに存在する。しかし、それは限定的であることが分かったためである。特に医療分野は米国企業の強さが目立ち、また制度面でも国家間に大きな相違があるため、国際展開が難しいという現実がある。また製品が多岐に渡り、そのメーカーの規模もやはり多岐に渡る。したがって、製品カテゴリーによっては、国内企業での競争状況あるいはエコシステムについて検討するほうが有意義な成果を挙げることができるかもしれないと考えている。 第2に、介護機器や介護用ロボットに関しては、個人住宅向けの介護(生活支援)機器・ロボットのメーカーへの調査を進めるということである。日本国内の介護施設の利用は増えていて、行政を通じて調査をさせてもらうことも可能ではあるが、現場は非常に忙しく、時間を確保して頂くことは難しいことが分かったためである。 また今回は、競技用車椅子に関しては開発プロセスに関する情報をある程度、得ることができたため、引き続き、調査範囲を広げていきたい。 研究を遂行する上での課題は、医療と介護(生活支援)では異なる部分があることで研究目的が絞り込めない状況に遭遇することである。特に医療に関しては、企業主導というわけにはいかず、業界内での力関係ではやはり医師がパワーを持っていることが他の業界と同じような分析を進められないという問題点がある。 今後は企業間や産官学連携の広がりやエコシステムを検討していく必要があると考えられる。
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Causes of Carryover |
平成29年に遠隔地に住む家族の病気・入院があり、そのあと在宅医療を受けていたため、家族の負担を減らすため神奈川から毎週帰省した。さらにその家族が同年11月に死亡し、その後も忙しさが続いたため、当初の計画通りには研究を進められず、論文投稿も遅れた。また、海外出張を実施することも難しかった。 加えて平成28-29年度は大学では教務委員、29年度はその他の重責も担っていたため、大学の業務に充てる時間が非常に長くなり、研究時間の確保がさらに難しくなった。 上述の事情から、当初計画よりも研究の進捗が遅れ、また研究のためのインタビュー調査や海外出張、学会参加の時間を取ることも難しくなったため、結果的に資金を使用する機会が減ったことが使用額が生じた理由である。 今年度は海外出張を実施する予定があるため、確実に予算執行が可能である。
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