2016 Fiscal Year Research-status Report
地方食料品製造業の高付加価値化と収益化の定量・定性研究
Project/Area Number |
16K03894
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
金間 大介 東京農業大学, 国際食料情報学部, 准教授 (80435742)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 食品産業 / イノベーション / 知財 / 地方 / 競争力 / 北海道 / 農業 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在,国内外を問わず,食品市場の構造の変動が激しくなっている。そのため,これに対応できない食品企業の収益性は低下の一途を辿っている。そこで本研究ではまず,「第3回全国イノベーション調査」を用いて,食品企業がイノベーション活動を実施する際に弊害となる要因やそれを克服するための内的・外的要因等を探った。 日本国内の食料品製造業はすでに他製造業と比較して低収益化が進行している。この理由には複数の要因が考えられるが,そのうちの1つとして海外売上高割合の低さが挙げられる。イノベーション調査からは,食料品製造業の海外進出割合の低さが明らかになっており,これは企業規模によらない。その一方で,プロダクト・イノベーション,プロセス・イノベーションともに従事する企業の割合は他製造業と比較しても低くはない。特に中規模の食品企業では,大規模の食品企業以上に活発にイノベーション活動を行っていることが明らかになった。中規模の食品企業は地方に拠点を置いている場合が多く,彼らのイノベーション創出力がその地域の経済活性化に直結する例も少なくない。ただし,残念ながら現在のところでは,イノベーション活動の成果が当該企業の競争力や地方の競争力に結びついているとは言えない状況にあることがわかった。 しかし,数は少ないながらも,企業や地域が保有するコア・リソースを活用し成功を収めた企業や団体が存在することも明らかになっている。彼らが対象としたコア・リソースは、農産物、原材料や素材、天然化合物、製造技術など多岐に渡っており,それらをベースとして事業を展開する仕組みを自ら構築している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在は,定量・定性の両面から分析を行っている。定量分析としては,食料品製造業に属する企業の知的財産と企業パフォーマンスの関係性を検証している。分析母集団として,日本の食料品・飲料品製造業企業の中から上場企業101社、企業四季報未上場版2008年度~2014年度掲載企業92社の計193社を抽出し,その中からOEMや飼料や食品素材等のBtoBを主たる業とする企業を除外し、最終消費者に向けた製品製造を行っている企業を選定することで,分析データベースを構築した。 分析期間については2009年~2013年に限った。ただし、特許や意匠については保有件数を調査するため、1990年からデータを取得した。この際、文部科学省科学技術・学術政策研究所が公表するNISTEP企業辞書に依拠して各企業の過去の出願人名の変遷を追跡した。特許、意匠はPatentSQUAREから取得した。意匠の権利消滅日についてはNISTEP意匠DBから取得したが、一部に欠損が見られたことから、J-PlatPatより手作業で取得して補完した。 現在は,企業パフォーマンスに関する各指標(売上高,営業利益額等)を被説明変数として重回帰分析を行ったところである。各企業のビジネスモデルの違いなど企業固有の要素を考慮できていないことから、5年間の期間の企業ごとのパネルデータとして取り扱い、固定効果モデルで推計を行った。 推計の結果、特許の保有件数が増えることは、売上高、営業利益額の何にも有意な寄与をしていないことがわかった。本分析からは、少なくとも特許権による排他性の確保が、他社との競争優位に対して常に効果的であるとは限らないということができる。仮に出願件数が有意な寄与をするとしても、研究開発の成果による短期的な差別化の効果であると推測できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も,定性分析,定量分析の両面から研究を進める。定量分析としては,「現在までの進捗状況」で示したメソドロジーをより精緻化するとともに,データベースを拡張しつつ,分析モデルの確立を行う。 定性分析では,引き続きマルチ・ケーススタディの方法論を採用し研究を進める。ケースの選定方法として,コトラーらが示すイングリーディエントブランディング(Ingredient branding:IB)に着目する予定である。IBとは,新しい技術や製法,斬新なデザインを1つのブランド要素として最終製品の中に位置づける手法である。最終製品から見ればほんの一構成要素にすぎない成分や素材,技術,デザインなども大々的に強調し,消費者に働きかけるブランディングである。ケース選定は以下の5つの要因に従う。ここでは,よりクリティカルな2要因であるF1とF2を必須条件とし,これらに加えてF3からF5のいずれかが該当する場合,ケースとして選定する。
F1. 技術的に優れた材料や成分であること。そして、特許権その他の知財によって、そのことが証明かつ保護されており、品質によって差別化が可能なこと。F2. その材料や成分が、最終製品の品質や性能を決定する重要な要素であること。F3. 比較的新しい分野であったり、新しい製品カテゴリーであるなどの理由から、最終製品自体はあまりブランド化されていない方が良い。F4. 最終製品は技術的に複雑であったり、多くの工程を経て完成されている方が良い。F5. 最終製品とともに進化が可能である方が良い。
ケーススタディの際に抽出する情報としては,IBの詳細(商品化のプロセス,原材料,技術・製法,価格,販売方法,想定購買層,競合する商品,商品ジャンル)およびIBとしてのポイントを含めることとする。
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Causes of Carryover |
データベースの構築に係る人件費・謝金について,公的機関のデータベース等を活用することで当初想定していたよりも大幅に安くすることが可能となった。そこで,現地調査やそれに必要な機材を購入することで,研究を当初の計画よりも前倒しで先へ進めることが可能となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き旅費等に充てることで,当初の計画よりも先んじて研究を進めていく。
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