2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K03904
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
東出 浩教 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 教授 (50308243)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
姜 理惠 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (90570052)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Immigrant entrepreneurs / 移民起業家 / Cultural relativism / 文化相対主義 / EO / 起業オリエンテーション / Subjective Well Being / 主観的幸福感 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の研究目的は、様々な移民起業家を研究対象としたうえで、「移民起業家は母国・居住国の双方にどのようなプロセスで貢献するのか」、「在外経験は起業家と起業プロセスにどのような影響を及ぼすのか」というリサーチ・クエスチョンを主に定性調査で探索することにあった。結果として、移民起業家の起業成功プロセスと支援策の提示、在外経験と起業家精神・起業プロセスの関係解明までを目標としてきた。 研究手法としては、インタビューを用いた定性調査が主に使われている。また、本研究は移民起業家のこれまでの歴史そのものが研究対象となるため、実際のインタビューにおいて、可能な範囲でライフヒストリー分析の手法を取り入れ経験的な一次データの収集が試みられてきた。 これまでのところ、(1)アジア諸国の文化的差異をコンテクストとしてモデルに取り込むために、宗教や文化の違いを取り込んだモデルの再構築を試みた上で、理論的サンプリングの結果として、(2)韓国ソウル市で起業する日本人起業家達への質的調査、(3)マレーシア発ボーン・グローバル企業2社のケーススタディ、(4)フランス(特にブルゴーニュ地方)においてワイン醸造家として起業した日本人達への質的調査、(5)中国国内の上海、大連における日本人起業家、(6)インド及びシンガポールを拠点とした日本人ボーングローバル起業家への質的調査、さらには(7)比較対象として、日本国内で成功裏に事業変革をもたらしたオーナーとしてのファミリービジネス経営者への質的調査を実施してきた。 今後は、これまで収集したデータを、学会発表よび論文としてまとめ上げると同時に、これまでの知見を基準としたうえで、これまでに発見された移民起業家に関連する変数を文化相対主義とクリティカルに切り結びながら、最終的なモデル構築を図る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
質的データの収集は、ほぼ終了しているものの、二年次に、当初積極的に活用していく予定であった「Entrepreneurial Orientation(EO)」を説明変数とすることが必ずしも最適ではない可能性が示唆されたため軌道修正が必要となったこと、また論文としての発表が当初予定よりも遅れていることから、進捗状況は保守的な自己採点として「やや遅れている」と判断した。 二年次までに収集したデータ分析結果からの示唆としては、(1)韓国における日本人起業家からのデータ及びフランスにおける調査結果から、EOのいくつかの下位概念は、必ずしもこれまで経験的研究に沿った機序を示さないこと、(2)海外における日本人起業家のケースからは、日本の長寿ファミリービジネスの「生き残り戦略」と共通した因子が多数観察されることや、典型的な起業家研究には現れてこないタイプの「内発的モチベーション」が観察されること、また(3)アジア発ボーン・グローバル企業の一連のケースからはエフェクチュエーションとコーゼイションを媒介変数としてモデルに取り込む必要があること、などがあげられる。 更に、最終年度においては、(1)在外日本人女性の起業スタイルは、エフェクチュエーション理論からの示唆に一致する部分が多いこと、(2)そして相対的に年齢層の若い在外日本人ボーン・グローバル起業家の思考・行動パターンは、学歴をはじめとしたシグナリングが高いほどに、機会発見ではなくエフェクチュエーションに導かれた機会創造に近づいていくこと、そして(3)日本国内の長寿ファミリービジネスにおける起業家精神には、素材を活かした「質」をビジョンに取り入れたエフェクチュエーション・プロセスが観察されること、などが質的データにより導き出された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの理論的サンプリングに基づく質的分析データをもとにした分析結果から、十分な理論的飽和を導き、成果を積極的に学会発表するとともに学術論文としてまとめていく。具体的な表現の場としては、日本ベンチャー学会、日本創造学会等を中心としながらも、これまでの研究成果における発見の傾向を踏まえて、ファミリービジネス学会、米国バブソン大学が世界規模で組織しているSTEP(Successful Transgenerational Entrepreneurship Practices)などや、今回の研究成果に強い関心を寄せている台湾やシンガポールの大学と連携を取りアジア諸国における発表の機会を多く持つ予定となっている。 本研究課題の最終成果として提示するモデルでは、蓄積した経験的データが強く示唆するように、移民起業家のエフェクチュエーション・プロセスとコーゼイション・プロセスを対置させながらも、どちらの特徴をより強く示すのか、つまり起業家の「ブリコラージュ」の程度は、発見された様々な変数(幼少時の体験、シグナリングの程度、人口学的特徴、素材への執着、起業コンテクスト、等)に応じて可変することが中心的な命題となる。加えて、内発的モチベーションに裏打ちされたブリコラージュのプロセスが、起業マイルストンの段階的達成と振り返りにより、起業の生き残りや成長のみならず、移民起業家の内発的発展とモラル醸成にどのような機序で貢献しているのかに関してもモデル化される予定である。経験的な発見と導出されたモデルは、現在の政策上、社会上の問題あるいはSDGs等の環境に関する現状と課題に照らし、実務的な示唆や支援策に向けて論じられる。
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Causes of Carryover |
これまで移民起業家を対象としてインタビュー調査等を重ね、起業意図、起業の成功・失敗要因などを探索するためのコーディングを実施し、モデル化を進めてきた。 当該モデルの妥当性・信頼性を最終確認するため、3月19日および4月7日に日本人移民起業家に対する、フォーカス ・グループインタビュー、また5月中旬にはファミリービジネス経営者2名への追加インタビューを予定しており、テープ起こしの費用が来期に発生することが予想されるための延長申請となる。
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