2016 Fiscal Year Research-status Report
資本市場中心の金融システムにおける米国大手銀行グループの引受業務への進出
Project/Area Number |
16K03920
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
掛下 達郎 松山大学, 経済学部, 教授 (00264010)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宿輪 純一 帝京大学, 経済学部, 教授 (50767217)
蓮井 康平 松山大学, 経済学部, 講師 (90780619)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 資本市場中心の金融システム / 大手銀行 / 引受業務 |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカ大手商業銀行グループは,いわゆる資本市場中心の金融システムにおいて,とくに1980年代後半から大手投資銀行と競争してきた。すなわち,投資銀行業務のコアである引受業務において,①銀行の証券業務元年(1996年)後にアセットバック証券,モーゲイジ担保証券,社債引受シェアで,②サブプライム危機後には引受業務のコアである新規公開株式等の株式引受シェアで,大手商業銀行グループは大手投資銀行を上回るようになった。その実態と原因をニューヨークとワシントンD.C.で調査した。 訪問先は,ワシントンD.C.では,FRBのAndrea de Michelisチーフ,IMFのMathew JonesチーフとDouglas Michael Laxtonチーフ,世界銀行の宮原隆アドバイザー等である。ニューヨークでは,Financial TimesのGillian Tettマネージング・エディター,総領事館領事の大沢元一財務部長,JETRO杉本啓次次長,MUFG栗原浩史ディレクター,日本経済新聞社の大塚節雄記者等である。アメリカの研究者には最先端の感覚を学ぶとともに,駐在の方々にはいわゆる銀行中心の金融システムである日本との違いを伺うことができた。 ニューヨークでは定点観測を続け,それを参考に金融機関のデータ分析をしている。この分析により,銀行中心の金融システムである日本やドイツの大手商業銀行グループとの資本市場への進出プロセスの異同や特徴を把握できれば,資本市場中心の金融システムであるアメリカやイギリスの大手商業銀行グループの国際的な競争力の源泉を抽出することができ,本研究の新たな地平が広がることになる。 ワシントンD.C.では新たに中央銀行や国際機関を訪問して,彼らの現状認識を伺うことができた。これは,現在までの研究を再検討することに役立つとともに今後の研究方針に生かすことができるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題について,以下の3点について研究に進展がみられた。 1)1996年に,アメリカ大手商業銀行グループはフリーハンドの証券業務を展開できるようになった。この銀行の証券業務元年から,証券子会社が,いつどのように自らオリジネートし開発した新規の証券化商品であるアセットバック証券とモーゲイジ担保証券の引受業務を拡大したかについて,研究代表者の仮説が現地の研究者にも一定の理解が得られた。 2)自らの証券化商品とは異なり,伝統的な株式や社債の引受業務は,従来,大手投資銀行が優位と考えられてきた。この伝統的な株式や社債の引受業務において,大手商業銀行グループが,いつどのように大手投資銀行のシェアを追い越すようになったかについての仮説も同様に一定の理解が得られた。 3)その一方で,なぜ日本では大手銀行グループの証券子会社による引受業務が拡大しないのか。たとえば,証券化が日本では発達していないので,引受業務も拡大しないのか。そもそも,証券化が発達していない理由は何か。これらは日本の金融機関にヒアリング調査をすることができた。しかし,その理由は明確にはならなかった。 これらのヒアリング調査によって研究代表者の仮説を方向付けし,大手銀行グループの引受業務への進出をおおむね正しく捉えることができ,本研究における最初のブレイク・スルーとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は,おおむね順調に進展しているため,ほぼ当初通りの研究計画を考えている。上記のヒアリング調査によってデータ分析の方向性がほぼ定まったので,公表資料による個別の大手銀行グループのパネル・データやTVP(時変パラメーター)-VARモデルによる実証が可能となった。 これらのデータ分析によって,大手銀行グループによる各種金融商品の引受業務への進出過程を実証する。データ分析の詳細は,研究分担者の蓮井康平専任講師(Scientific ReportsなどのJournal論文有)が担当する。PL(損益計算書)の詳細なデータは2001年からしかないが,各種金融商品の引受上位10社の引受額と手数料のデータは,変化が始まる前の1987年から揃っているため分析が可能である。 2012年と2014年にヒアリングを行ったMorgan Stanleyの取締役7人の1人,面チーフリスクオフィサーはリスク管理部門のヘッドであり,研究協力者宿輪純一帝京大学教授の富士銀行時代の上司である。Morgan Stanley自体はサブプライム危機にそれほど関与しなかったので,面氏からアメリカの大手金融機関がリスク管理面からどのような対応を取ってきたか等をヒアリングできると考えている。また,面氏は日本の都市銀行にも勤務していたことがあり,研究の進展していない日本との比較についても示唆を得ることができる可能性がある。これらはデータ分析の際の貴重な指針となり,本研究の全体像把握に役立つと考えている。
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Causes of Carryover |
Financial Times社のThe Banker誌のバックナンバーを日本の書店を通じて購入しようとしたが,定価の約3倍の金額であったため断念した。同じく,書店を通じて定期購読をしようとしたが,定価の約2倍の金額であったため断念した。そこで,松山大学生協を通じてインターネットで1年分の定期購読を申し込んだが,支払いは次年度となった。上記の理由により次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
このため,The Banker誌の支払いを行うとともに,研究代表者と研究分担者の計3名でイギリス,ロンドンの金融街シティへの調査を行うこととし,次年度使用額はその経費に充てることにしたい。
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Research Products
(6 results)