2016 Fiscal Year Research-status Report
台湾情報機器受託企業の新展開とグローバル生産ネットワークの変容に関する研究
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16K03921
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
中原 裕美子 九州産業大学, 経営学部, 教授 (40432843)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 台湾 / 受託生産 / ODM / EMS / サーバー |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、これまでノートPCの受託を主業務としてきた台湾企業の2010年以降の展開とそれに内在する論点および今後の課題を、これら企業が包摂されているグローバル生産ネットワークの態様の変化に着目して分析した。 その結果、以下のことが明らかになった。まず、タブレット型端末へのシフトが進んでいるが、1台当たりの利益も低いことに加え、1980-90年代にノートパソコンの受託で、生産だけのOEMから開発まで請け負うODMへと進化を遂げた台湾企業が、タブレット型端末においては、組立てのみの受託に甘んじることもある。次に、サーバー事業へのシフトも進んでいることである。これにおいては、エンドユーザーから直接受注する事業が進んでおり、ODMからの脱皮のチャンスである。しかしこれには同時に、これまでの顧客と競合し、他事業における注文を失うリスクも孕んでいる。これへの対処として分社化を図る企業もあるが、分社化には独自のリスクもあることが明らかになった。 また、上記の研究と平行して、電子機器の大規模な受託生産を行うEMSという業態で世界トップの台湾企業鴻海がシャープを買収したことについて、両社の経営の相違点や今後の展望についての研究を行った。鴻海の受託は、一部の部品供給と機器の組み立てだけというケースが多く、機器全体の設計や部品選択という上流工程にはあまり踏み込めておらず、設計で利益を得られていないことから、製品一台当たりの利益率は低いものとなっている。そこで鴻海はシャープ買収により上流工程への進出を図ろうとするのではないかと思われる。また鴻海は、中国の豊富で安価な労働力を利用した大規模な受託生産で成長したが、この「豊富で安価な労働力」はいつまでも安泰ではない。鴻海は、これまでの成功モデルとは別のモデルを構築する必要に迫られていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、これまでノートPCの受託を主業務としてきたこれら台湾企業の2010年以降の展開とそれに内在する論点および今後の課題、それへの企業・政府の対処を、これら企業が包摂されているグローバル生産ネットワークの態様の変化に着目して分析し、その成果を、海外の出版社から英文で出版される図書の一章という形でまとめることができた。 また、これと平行して、電子機器の大規模な受託生産を行うEMSという業態で世界トップの鴻海が、先進国の電機メーカー、シャープを買収したことについて、両社の経営の相違点や、この鴻海によるシャープ買収の今後の展望について様々な観点から研究したが、この研究も、書籍の一章という形でまとめ、出版することができた。 従って、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下に注力して研究していく。 第一に、台湾ODM企業の地理的な新しい展開である。これまで中国を生産拠点としていたこれら企業は、近年、ブラジルや東南アジア等、地理的な活動範囲を急速に拡大している。なかでも、東欧への急展開は目覚ましいものがある。今年度はこの地理的な活動範囲の拡張に着目して研究する。 第二に、自社ブランド事業の、既存顧客との競合の打破である。かつてノートPC事業において、受託専業であった台湾企業が自社ブランドを展開すると、「それまでの顧客であった先進国企業と市場で競合する」という大きな問題が生じた。サーバー事業においても、台湾企業が直接エンドユーザーへの販売ルートを開拓して、顧客である先進国企業と競合するケースが見られる。この「先進国企業からの受託生産を脱却しようとしたら、顧客である先進国企業と競合する」という、どの後発工業国でも起こりうる普遍的なジレンマとその解決方法について分析し、参考事例を提供したいと考える。
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Causes of Carryover |
今年度は、当初海外調査をする予定であったが、国内における文献調査や論文執筆に重点を置いたため、海外調査には行かなかった。従ってその分の旅費が余剰となったため、次年度に繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に、台湾ODM企業の地理的な新しい展開の調査として、近年これら企業がとりわけ目覚ましい展開を行っている中東欧諸国の調査を予定している。この調査に使用する。
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Research Products
(2 results)