2017 Fiscal Year Research-status Report
新産業都市における商店街の変遷:企業社会の影響に関する理論的・実証的研究
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16K03954
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
畢 滔滔 立正大学, 経営学部, 教授 (70331585)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 新産業都市 / 企業城下町 / 企業社会 / 市民参加 / オレゴン州 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本の新産業都市における商店街の変遷を明らかにした上で、商店街の発展に対して企業社会が与える影響を理論化することである。企業社会とは、企業の支配が企業内のみならず、労働者とその家族の政治的・市民的活動、さらにその子供の教育にまで及ぶ社会である(渡辺、2004)。平成29年度アメリカ・ポートランド州立大学で在外研究を行い、企業の支配という点で日本の新産業都市と類似する米国企業城下町について調査を行った。3つの作業を行った。(1)オレゴン州の企業城下町の変遷について、史料を収集して分析した。(2)米国の企業城下町の社会的・経済的・文化的特徴に関する先行研究をレビューした。(3)かつて企業城下町であったポートランド市ケントン地区について現地調査を実施した。 研究を通じて得られた結論は4点にまとめることができる。第1に、1970年代まで主要工業が木材加工業と食品加工業であったオレゴン州において、企業城下町は数多くつくられ、また、その一部は1990年代まで存続していた。第2に、オレゴン州の企業城下町の多くは、日本の企業城下町や新産業都市と類似し、企業が社宅だけではなく、小売施設、娯楽施設、学校を整備した。第3に、オレゴン州の企業城下町の多くは、日本の新産業都市と類似し、企業の支配が企業内のみならず、労働者とその家族の政治的・市民的活動にまで及ぼした。第4に、木材加工産業の衰退により、オレゴン州の企業城下町は人口が減少して衰退した。 アメリカの企業城下町は、日本の新産業都市と同じように、企業が従業員とその家族にハードの面で良い住環境を提供した一方、従業員とその家族の政治的・文化的活動を厳しくコントロールしようとした。このような町で住民参加のまちづくりは発生しにくかった。これは、主要産業の衰退により廃れた町の再生を妨げた。この点を指摘したことは、本研究の意義である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はおおむね順調に進展している、と評価する。その理由は3つある。 第1に、理論研究は当初の計画通り進展しているからである。平成29年度の理論構築の主な課題は、(a)企業社会、(b)住民参加のまちづくり、(c)都市再生、(d)商店街の発展といった要素間の関係を理論的に検討することである。平成29年度理論構築について3つの作業を行った。(1)アメリカの企業城下町の社会的・経済的・文化的特徴について、先行研究を幅広くレビューした。(2)まちづくりにおける市民参加が、主要産業の衰退により廃れた町の再生に及ぼす影響について、先行文献を幅広くレビューした。(3)クオリティ・オブ・ライフを成す要素および、第二次世界大戦後、日本と米国において、経済成長一辺倒のまちづくり政策が都市のクオリティ・オブ・ライフに及ぼした影響について、先行研究を幅広くレビューした。 第2に、企業の支配という点で日本の新産業都市と類似する米国企業城下町について実態調査を行ったからである。2つの作業を実施した。(1)オレゴン州の企業城下町の変遷について、史料を収集して分析した。(2)かつて企業城下町であったポートランド市ケントン地区について現地調査を実施した。 第3に、研究の結果を広く社会に発信したからである。実態調査の結果は、ケース「ポートランドのケントン女性村(Kenton Women's Village)」にまとめ、オンラインまち経営専門誌・週刊誌『エリア・イノベーション・レビュー』(http://air.areaia.jp/、2017年6月26日)に掲載された。このケースは、ポートランド州立大学で実施された「まちづくり人材育成プログラム:オレゴン州ポートランド市の事例から学ぶ住民主体のガバナンス」で参考資料として採用された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度と平成31年度は理論研究と実態調査を行う予定である。 理論研究について、これまで行った文献レビューの結果をまとめ、学会発表を行い、和文と英文の論文を作成する。具体的には、(1)20世紀米国の企業城下町と日本の新産業都市の社会的・経済的・文化的特徴、(2)企業社会が市民参加のまちづくりに及ぼす影響、(3)市民参加のまちづくりが町のクオリティ・オブ・ライフに及ぼす影響、および(4)クオリティ・オブ・ライフが衰退した町の再生に及ぼす影響、といった4つの問題について、学会発表を行い、論文を作成する予定である。学会発表は日本商業学会および日本マーケティング学会の全国研究大会で行う。和文の論文について、査読付きジャーナル『流通研究』と、査読ないジャーナル『立正経営論集』に投稿する。英語の論文について、査読付きジャーナルInternational Journal of Marketing & Distributionに投稿する。 実態調査について、(1)熊本県熊本市、(2)福岡県大牟田市、(3)富山県高岡市、(4)岡山県倉敷市、(5)愛媛県新居浜市、および(6)愛媛県今治市の6つの新産業都市について、3つのデータを収集する。(A)小売統計、商店街実態調査および、都市人口の就業状態に関する統計データおよび、(B)新産業都市の指定に伴って実施された主な都市開発事業に関する文書資料を収集し、(C)各都市における代表的な近隣型および地域型、広域型商店街について現地調査を実施する。実態調査を通じて、日本の新産業都市のまちづくり政策が商店街および中心市街地の変化、さらに都市再生に及ぼした影響を把握する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は次の通りである。平成29年度はアメリカ・ポートランド州立大学で在外研究を行ったため、支出は米ドルで行われた。平成29年度後半円高ドル安により、円建ての支出額が減少したため、次年度使用額が生じた。 助成金の使用計画は次の通りである。 平成30年度理論研究について、これまで行った文献レビューの結果をまとめ、学会発表を行い、和文と英文の論文を作成する予定である。そのため、次の経費を支出する予定である。参考図書を購入する物品費、論文校閲のための校閲費、および学会出席のための旅費である。 平成30年度実態調査について、(1)熊本県熊本市、(2)福岡県大牟田市、(3)富山県高岡市、(4)岡山県倉敷市、(5)愛媛県新居浜市、および(6)愛媛県今治市の6つの新産業都市について現地調査を実施する予定である。そのため、旅費を支出する予定である。
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