2018 Fiscal Year Research-status Report
新産業都市における商店街の変遷:企業社会の影響に関する理論的・実証的研究
Project/Area Number |
16K03954
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
畢 滔滔 立正大学, 経営学部, 教授 (70331585)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 企業城下町 / クオリティ・オブ・ライフ / 中心市街地 / 商業 / 起業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本の新産業都市における商店街の変遷を明らかにした上で、商店街の発展に対して企業社会が与える影響を理論化することである。平成30年度、先進国の都市の中心市街地商業の変遷及びそれに影響を及ぼした要因に関する先行研究をレビューしたと同時に、福岡県大牟田市に関する調査を行い、また、同市と人口規模が類似する米国の企業城下町であったオレゴン州ベンド市との比較分析を行った。 本研究の結果により、先進国の主要産業が製造業からサービス業へと転換している中、製造企業の誘致より、むしろ都市のクオリティ・オブ・ライフは、都市人口の増加、さらに中心市街地の商業の発展に重要な影響を及ぼすことが明らかになった。本研究の結論は以下の3点にまとめることができる。 第1に、日本においても米国においても、企業城下町は、基幹企業の撤退により、中心市街地の商業は大きな打撃を受けた。 第2に、大牟田市の中心市街地商業とりわけ中小規模店舗の回復が見られていない中、ベンド市は、中心市街地の中小規模小売店と飲食店が活気あふれている。 第3に、両都市に見られた違いをもたらした要因は次の通りであると考えられる。ベンド市は、大牟田市と異なり、主要企業であった木材加工企業が撤退した後、新しい製造業を懸命に誘致することより、むしろ、汚染された市内の川をきれいにするなど、住みやすい環境の整備に力を入れた。美しい環境および安い不動産価格により、ベンド市は、起業家およびリタイヤした人に人気の高い都市となった。同市における新たに創業された企業のうち、オレゴン州産のホップを使い、クラフトビールを生産する生産者組合や企業が多く誕生し、競争力の高い生産者に成長しただけではなく、パブチェーンをも展開している。これは、同市における新しい産業の発展、さらに、中心市街地商業の集客力に大きく貢献している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由は以下の3つある。 第1に、理論研究は計画通り実施した。1970年代後半から先進国の主要産業が製造業からサービス業へと転換しつづあった中、日本、米国、イギリス、さらにスペインにおける企業城下町や工業都市の中心市街地の変遷に関する先行研究を幅広くレビューした。レビューを通じて次の3点を明らかにした。(1)産業構造の変化により、戦後中産階級の中核をなした大手製造企業の労働者とその家族は、経済状況を悪化し続けた一方、高い教育を受け、可処分所得がより高い専門職業人階層が拡大した。また、核家族が減少し、独身家族や、共働きで子供のいない家族など家族形態が多様化した。(2)日本の新産業都市と異なり、欧米におけるかつての工業都市・企業城下町の中、主要産業が衰退した後、製造業の誘致より、むしろ汚染された自然環境をきれいにし、住環境の整備や文化遺産の修復・再利用に都市再生の重点を置いた都市があった。(3)こうしたクオリティ・オブ・ライフが改善された都市の多くは、アーティストや起業家、および専門職業人の移住先となった。彼らは、中心市街地の商業の再生に市場を提供したため、中心市街地における物販や外食産業の創業が活発化した。 第2に、新潟県新潟市や熊本県熊本市、北海道苫小牧市など人口規模がより大きい都市および、熊本県大牟田市のような人口規模がより小さい都市両方について調査を実施した。これらの新産業都市は、都市規模にかかわらず、中心市街地の商業が衰退している状況を明らかにした。中心市街地の差別的価値の実現および起業環境の改善は、中心市街地商業の再活性化に重要であることを明らかにした。 第3に、日本の新産業都市だけではなく、米国のかつての企業城下町に関する現地調査を実施し、日米都市の比較分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、研究の最終年度であり、研究の結果をまとめる作業に重点を置く。具体的には、以下の3つの作業を行う予定である。 第1に、これまで行ってきた理論研究および日米の新産業都市に関する事例研究をまとめ、日本商業学会で発表すると同時に、日本語査読付き雑誌『マーケティングジャーナル』に投稿する。 第2に、研究の結果をまとめ、2020年米国大学計画学会(ACSP)全国大会および、2020年ヨーロッパ大学計画学会(AESOP)の論文発表(Call for papers)に応募する。これらの二つの大会で研究の結果を発表することで、研究結果に関するコメントおよびアドバイスをもらう。 第3に、中心市街地の商業の衰退は歯止めがかからない日本の新産業都市に振興策を探るために、米国の城下町の再生事例を調査する。具体的には、1980年代まで経済が木材産業に依存していたオレゴン州フードリバー市(Hood River)および、木材加工と漁業が主要産業であったオレゴン州アストリア市(Astoria)に関する現地調査を実施する。人口が約8,000人のフードリバー市は、木材産業が衰退した後深刻な不況に陥ったが、現在最も自然環境が美しい米国都市の一つとして多くの観光客が訪れており、市街地の小売店と飲食店が活気あふれている。一方、人口約1万人のアストリア市は、木材加工および漁業が衰退した後、クラフトビールを製造するベンチャー企業が創業し、また、市当局は市内の主要な川であるコロンビア川をきれいにし、川沿いにある、かつての魚缶詰の製造工場が民間投資により高級ホテル・キャネリピアホテル(Cannery Pier Hotel)に改装されたなどの事業により、観光客が多く訪れ、市街地の商業が再生の道にたどっている。事例研究から得る知見は、日本の新産業都市に重要な示唆を与えると考えられる。
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