2017 Fiscal Year Research-status Report
日本における書籍再販制度と返品制度の理論研究と書籍電子化の影響
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16K03963
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
岩本 明憲 関西大学, 商学部, 准教授 (10527112)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 再販売価格維持 / 高価格戦略 / 低価格戦略 / プロモーション戦略 / コミュニケーション戦略 / コミュニケーション・ポートフォリオ・マネジメント / CPM分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は主に価格維持戦略に関連したプロモーション戦略に関して近年のオムニチャネル化(より具体的にはオンラインtoオフライン及びオフラインtoオンラインの消費者行動)を踏まえた新たなモデルの構築を実施した。それはコミュニケーション・ポートフォリオ・マネジメント(CPM)に結実した。 このモデルは、既存の広告効果モデル(AIDAモデル)に関する学説史研究及び、Marshall (1919) を端緒とする広告分類理論という伝統的プロモーション理論によって支えられ、オンラインとオフラインを盛んに往来する消費者行動及びそれを踏まえた企業のコミュニケーション戦略を説明する上で極めて有用な理論的枠組みであると考えられる。これまでの「情報提供型(informative)」及び「説得型(persuasive)」が主流のプロモーション戦略を前提とした場合に有効な低価格戦略が、Bagwell (2001) で提唱された「補完型(complementary)」コミュニケーション戦略を新たに想定した場合には高価格戦略が有効である可能性を示唆している。 こうした研究成果は「オムニチャネル時代の New AIDA モデルとその理論的展開:コミュニケー ション・ポートフォリオ・マネジメント」(日本マーケティング学会アニュアル・カンファレンス・プロシーディングングス第6巻pp.362-374、10月)にまとめられ、平成29年10月22日の日本マーケティング学会において発表された。また、この枠組みを使用し実際の企業のプロモーション/コミュニケーション戦略を分析(CPM分析)したケーススタディ研究が2018年4月にタイ王国バンコクで実施のICAMA(International Conference of Asian Marketing Association)の口頭研究発表テーマとして採択された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
近年、電子書籍業界に限らずあらゆる業界においてオムニチャネル化(オンラインとオフラインの融合)が進展し、それに伴いマーケティング戦略(より具体的にはプライシング戦略、チャネル(の構築・維持)戦略、プロモーション/コミュニケーション戦略)は極めて多様化している。価格維持戦略を考察する場合、こうした各要素に影響を及ぼすデジタル化の効果をモデルに採り入れることが不可避であり、価格戦略に関連した新たなプロモーション/コミュニケーション・モデルが存在しない状況において、理論史的・学説史背景及びアプローチを踏まえた新たなモデル(コミュニケーション・ポートフォリオ・マネジメント)の構築に多くの時間を要したことは否定しようもない。とはいえ、前年度のプライシングに関連する静学的及び動学的なモデル構築を済ませ、更に、今年度においてオムニチャネル時代における新たなコミュニケーション戦略の枠組みを構築したことは、研究計画策定当初には完全には想定・確信が難しかった大きな研究成果であったとも言える。 また当初は想定していなかったICAMAでの研究報告も可能となり、研究成果を広く国内外に発信できたことは想定外の成果であったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、研究課題の本丸である再販売価格維持行為の理論・学説研究に注力し、一連の研究成果を踏まえて既存の理論研究の成果を再検討・再構築するための研究活動を推進する予定である。具体的には1990年代後半のインターネット登場前夜までの再販売価格維持理論の整序と、それ以降の2015年頃までの理論研究の発展の追尾を行う予定である。その際には、流通業者のフリーライド問題が引き起こす垂直的外部効果と水平的外部効果の違い及びそれが製造業者に及ぼす影響を加味し、更に理論が暗黙に想定する財の性質を可視化・顕在化することによって、より精確かつ現実に即した理論構築を行うことを目指している。 同時に、平成29年度に実施したコミュニケーション・ポートフォリオ・マネジメントに関連するCPM分析研究を進めることで、当該研究の射程範囲を押し広げることを企図している。これは、当初の研究計画において予想されていなかったいわば副産物であり、当該研究及びその更なる発展にとって不可欠な一つの理論的視座になる可能性が高く、また世界的に見て類似する研究も皆無であるため、当該研究代表者が主導して研究を推し進める必要があると考えられる。そして、このことは当該研究課題の充実にも大いに寄与するものと考えられる。
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Causes of Carryover |
次年度において資料収集を目的とした米国出張を新たに計画しているため、資金確保のために平成29年度の資金使用を制限せざるを得ない状況にあった。また、平成28年度において、当初想定された研究に必要な資材をスムーズに調達することができたため、平成29年度の支出を抑えることが可能となった。
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