2017 Fiscal Year Research-status Report
グローバル事業の戦略的投資意思決定会計システムの研究
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16K03981
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
中村 博之 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (20217889)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グローバル事業 / 意思決定会計 / 経営戦略 / 投資プロジェクト / キャッシュ・フロー予測 / 戦略実行 / 中期経営計画 / 意思決定会計モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、企業の経営構造を決定するという重要なグローバル意思決定のための管理会計システムを研究対象としている。このための研究アプローチとして、文献に基づく理論研究と企業実務調査を採用することとしている。このうち、理論研究として、欧米の経営学文献である経営戦略に関する著書を再確認した。このような文献を渉猟することで、意思決定会計である資本予算は戦略実行の手段として認識されていることから、そのような意思決定会計としての資本予算は、戦略との関連づけをより一層、意図した会計システムとするべきこととなる。このことで、現代の戦略的意思決定会計では、単純な金額計算は不十分で、戦略との関連の明示が必要となる。そのため、非金額的な数値などとも関連づけ、戦略と軌を一にし、戦略実行の一部として投資の成果であるキャッシュ・フロー予測を行わなければならないことになる。ただし、この戦略は、企業、事業、機能などの各層で多重的に構成されるものであるため、この複雑に絡む各層の戦略をどのように意思決定会計に取り込むかということが新たな課題となった。 企業実務調査については、今回、製造業に属する日本の大企業を訪問することができた。それによれば、企業の戦略について、大枠としては、企業戦略、事業戦略、機能戦略というレベルで策定されるものの、これら戦略に基づいた、戦略的な意思決定での投資の実行に関しては、中期経営計画の役割が重要であることが判明した。日本企業の特徴は、欧米とは異なり、金額などの数値を含めた中期経営計画を策定し、その外部公表を行っていることである。このため、意思決定の段階で、この中期経営計画との関連を重視する。したがって、この中期経営計画と適合するように、意思決定会計が展開されることとなることが明らかになった。ただし、これが一般傾向であるかについては、より多くの企業の実態把握が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、戦略的意思決定会計の研究にあたり、理論と実務の双方を分析、検討することとしている。本研究の第一年度は、理論研究が中心で、日米欧の経営学や管理会計の文献を渉猟し、研究の基本的な枠組みを構築し、次年度以降の分析枠組みとすることができた。そして、それを基盤として、グローバル事業の意思決定会計システムに関する企業実務の分析を行うことを次年度の課題として認識した。それを受けて、本年度は、企業実務に関し、インタビュー調査実施のために、いくつかの企業に訪問可否についてアプローチした。その結果、日本の製造業に属し、グローバルに事業展開する、100年以上の歴史を有する有名大企業を訪問して、関連部門の担当責任者から投資意思決定会計の実態をインタビューすることができた。このインタビューに際しては、研究着手段階から、実務調査に向けて、本研究のための分析枠組みを検討していたことから、実際のインタビュー調査は順調に進み、投資意思決定会計の今後に示唆を提供する重要なケースとすることができた。 このように、理論と実務を研究の中心とするという本研究の意図は、ここまでの研究期間を通じて、十分に研究が進行している状況にあるとか考えることができる。この研究進捗については、すでに行ったいくつかの研究成果報告、また、研究論文として対外的に公開されていることからも明らかであり、このことからも順調な研究進捗と考えることが妥当である。さらに、今後に向けて、より詳細かつ複雑に交錯する、企業の経営戦略に関する検討、そして、製造業、サービス業を問わず、より多くのグローバル事業での積極投資を志向する企業インタビューを実施することによって、日本企業の一般的な状況の把握などを行うことが望まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の特徴は、理論と実務の双方を分析、検討することである。これを強力に推進するために、理論研究では、研究の中心とする戦略的な管理会計を補強するために、経営戦略を中心に、経営学関連の研究のより一層の発展を目指したい。そのため、文献の研究のみならず、経営学に関する研究者との対話を重視することとしたい。具体的には、経営関連の学会参加や研究者との議論をグローバルな形で行うことで、企業の実態に迫るような意思決定会計の研究とすることが必要になろう。 実務に関する調査では、今まで以上に多くの企業訪問による投資意思決定会計に関するインタビュー調査を実施したい。ただし、現実問題として、訪問調査の申し入れに対しては、それを積極的に受け入れる企業はごく少数であり、むしろ消極的な企業が多数あるのが実態である。そのため、外部公開される各種講演会や研究集会などへの参加を行いたい。また、卒業生組織などの外部組織の利用や個人的な人間関係を援用することで、個人的な連携をより多く利用して、訪問調査に結実することを目指したい。このとき、業種を限定することはなく、調査については、より多数かつ多様性を持たせるようにしたい。今までのところ、調査対象は製造業の投資意思決定会計が中心であるが、次年度は、製造業、サービス業を問わずに調査の対象とすることとしたい。これにより、グローバル事業への投資意思決定会計システムの全体像がより広範に判明することができる。
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