2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03986
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村宮 克彦 大阪大学, 経済学研究科, 准教授 (50452488)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ディスクロージャー / 期待リターン / 業績予想 / 財務報告の質 / 現在価値恒等式 / バッド・ベータ / 流動性リスク |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの会計研究では,会計指標がCAPMベータなどのリスク指標と高い相関関係にあることが明らかにされているが,財務報告それ自体がリスクを変化させる直接的要因となっているという因果関係を分析した研究は国内外でもほとんど見当たらない.本研究は,財務報告の質が,近年新たなリスク要因として注目されている (1)流動性リスクや (2)バッド・ベータの低減に寄与しているかどうかを検証することを通じて,現在のところブラック・ボックスとなっている財務報告の質とリスク,そして期待リターンとの関係解明を目的とする.
研究開始初年度にあたる本年度は,リスクに影響を及ぼしうる財務報告の質の候補を検討し,有力な候補である「経営者による業績予想の質」の特性を検討した.経営者は,企業の将来見通しにもっとも精通しており,彼らが公表する業績予想を基礎として投資家は期待形成を行っていると言われている.したがって,彼らの業績予想の精度が低ければ,それをもとに期待形成を行っている投資家は,必然的に将来の不確実性(リスク)に直面することになるのである.こうして,「経営者による業績予想の質」はリスクに影響を及ぼしうる財務報告の質の候補たるのである.本年度は,その予想の質が,果たして経営者が予想を行う際に利用する情報の質に影響を受けるかどうかを検証した.日本の開示制度をうまく利用して,予想の際に用いるインプットデータの質を特定化し,その質が低ければ,予想精度も低いことを明らかにした.
上記の研究に加えて,適切な期待リターンの推計方法の特定にも力を注いだ.会計上の基本制約式であるクリーン・サープラス関係を前提に導出された近似的な現在価値恒等式を理論的基礎として,期待リターンが期間構造を有する場合の期待リターン推計方法を提示し,日本市場ではファクター・モデルよりも,提示した推計方法の方が優れていることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度に行う予定であったリスクに影響を及ぼしうる財務報告の質の候補に関する一連の研究について,計画段階ではディスカッション・ペーパーとして外部へ公表するのに留める予定であったが,その研究成果の一部は海外の査読付雑誌への掲載が決定し,着実に研究成果を残すことができた.
また,本年度は,先の研究が順調に進んでいるため,発展的な研究にも取り組むことができた.その一環として行った期待リターンが期間構造を有する場合の研究については,業績予想をうまく活用することで,より正確な期待リターンを推計することができることを発見し,その研究成果は,日本会計研究学会や日本経営財務学会での報告を経て,国内の査読付雑誌へ投稿するに至った.
以上のように,当初の予定では,本年度は研究成果としてディスカッション・ペーパーの公表しか念頭になかったが,海外の査読付雑誌への掲載,並びに学会発表,国内の査読付雑誌への投稿まで行うことができたことから,当初の計画以上に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,財務報告の質が,流動性リスクとバッド・ベータに直接的に影響を及ぼしているかどうかを検証し,本研究の主目的を達成するのが第一目標である.加えて,発展的な研究として,グッド・ベータをショート・ターミズムの代理変数として捉えて,監査役会や取締役会,経営者報酬制度,買収防衛策などの各種特性のうち、一体何がショート・ターミズムを助長・抑止しているかを分析する.
また,これまで効率的市場仮説の反証として認識されてきた会計発生高アノマリーをはじめとする各種の会計アノマリーについて,ポストCAPMのフレームワークを使って,どこまでがリスクに対する報酬を反映しており,どこまでが市場でのミス・プライシングに起因するのかを明確にし,株式市場の効率性に関する含意を導く予定である.本年度に実施した分析によると,会計発生高アノマリーは,いまなお日本市場で現存し,あらゆるファクター・モデルによっても説明できない頑健なアノマリーであることが分かった.今後は,近年再び注目を集めているq理論を基礎とした投資ベースのアセット・プライシング・モデルによって,この現象が効率的市場仮説に反するアノマリーなのかを検証していく予定である.
さらに,分散分解という手法を適用して,エンタープライズ・レベルのリターン及び株式リターンの変動を引き起こす要因として,事業利益ニュースと割引率ニュースのいずれのニュースがより重要であるかを実証的に考察する予定である.既に日本企業のデータを用いた分析を行ったが,この種の研究はいまだ国内外で行われておらず,いち早く世界の会計研究をリードする米国のデータを利用して分析する必要性を感じた.そこで,本年度は米国企業に関する財務・株価データを購入し,分析の足掛かりを作った.データベースの整備が完了次第,当該研究に取り組む次第である.
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Causes of Carryover |
いまだ国内外で行われていない先進的な研究を行うことを目的として,計画時の予定にはなかった米国企業の財務・株価データを購入した.そのため,当初の予算計画を変更することになり,いくばくかの次年度繰越が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は海外査読雑誌に投稿を目論んでいるため,英文校閲の金額がかさむことが予想されるため,それに充てる予定である.
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Research Products
(5 results)