2020 Fiscal Year Research-status Report
組織内多様性と経営者属性の多様性の拡大が租税負担削減行動に与える影響
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16K04006
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
大沼 宏 中央大学, 商学部, 教授 (00292079)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コーポレート・ガバナンス / 監査報酬 / 監査複雑性 / 監査リスク / 税務リスク / 不完備契約 / 戦略的提携 / 租税負担削減行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は主として2方向の研究を進めた。第1が,租税負担削減行動と監査報酬の関連性についての調査である。第2が,監査報酬と不完備契約の関連性についての調査である。特に、不完備契約の中でも戦略的提携に着目をして分析を進めた。租税負担削減行動とは、企業が自らの経営資源を利用して税負担を最小化しようとする行動を指す。本研究計画としては、税引前当期純利益に対する法人税等費用の割合である法定実効税率をもって租税負担削減行動の指標と見なして研究を進めた。 第1の研究の成果としては、我が国の監査報酬に関して、租税負担削減行動に積極的な企業の監査報酬は、監査リスクの高まりを受けて上昇することを発見した。租税負担削減行動の程度の高い企業ほど監査報酬が高まることを追加検証によって示した。更に、租税負担削減行動に積極的な企業の税務リスクが高まることは監査リスクを高め、結果として監査報酬を上昇させることを発見した。実効税率の標準偏差を税務リスクの代理変数として用いて検証を行ったところ、税務リスクの高い企業ほど監査報酬は高まった。 第2の研究の成果としては、戦略的提携のような不完備契約を持つ企業では、外部監査人による監査の複雑性が増加するため監査報酬が大きくなる可能性がある。本稿は、上記のリサーチ・クエスチョンを踏まえて日本の企業に関する戦略的提携と監査報酬の関係、そして戦略的提携の種類と監査報酬の関係に焦点を当てて分析を行った。分析の結果、(1)被監査企業が戦略的提携の契約を結ぶと監査報酬が増加する(2) 被監査企業が契約提携の形で戦略的提携の契約を結ぶと監査報酬が増加することが析出された。これらの結果は、日本でも戦略的提携契約は監査の複雑性を上昇させ、それに対応して監査報酬を上昇させることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画のタイトルは「組織内多様性と経営者属性の多様性の拡大が租税負担削減行動に与える影響」であり、経営者属性に関する研究を敷衍していった結果、監査人の行動にまで分析対象は広がっていった。タイトルにある「経営者属性」として、当初の計画では経営者の保守性であったり、自信過剰、自信喪失等々の経営者の性格や育成過程、経営者養成過程などの、パーソナル・ヒストリーを中心に考えていた。しかし、研究を進めて行くにつれて、経営者外部の状況や背景も広く関わることが明確になってきた。筆者は、租税負担削減行動は多彩な経営者行動の集約結果として表象されるものと考えている。この経営者行動に影響を与えるものに、監査やコーポレート・ガバナンス、組織間関係、外部契約なども含まれる。その意味で、当初の計画以上の広がりを示しながら研究計画は進んでいると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」を踏まえて、今後の研究の方向性としては、経営者行動に影響を及ぼすものを経営者の内部属性に限定するよりも、より幅広いインプットが関わると考えたほうが適切であろうと踏まえている。その一つが監査であり、監査報酬を手がかりとして考えている。更に、組織間関係がやはり経営者行動に影響を与えていると考えることから、契約関係も検討の範疇に含める。不完備契約パースペクティブは、組織間関係を検討する際に、重要な視点になると判断している。その上で、改めて租税負担削減行動に影響を与えるものに、会計的な特性、ないし属性が重要な影響を及ぼすと想定している。もっともそれが何であるかについては、まだ解は見つかっておらず、この論点を追求することが、最終年度の課題と考えている。
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Causes of Carryover |
当初計画では、海外での学会報告を予定しており、そのための旅費交通費を見込んでいた。しかし、コロナ禍の広がりのため、学会そのものが海佐入れなくなったり、あってもオンラインによるウェビナーでの発表になったりした。海外での学会報告のための論文の翻訳チェックなども行わなかったために、そのための費用も未計上のままである。またデータベースの購入も予定していたが、手続が進まず、滞りがちである。次年度も海外での学会報告について、見通しは暗い。そこで研究環境の充実のためにデータ取得をより進めて行こうと考えている。
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Research Products
(4 results)