2018 Fiscal Year Research-status Report
公会計情報を活用した公共サービスの改善及び官民連携の促進に関する実践的研究
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16K04021
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
馬場 英朗 関西大学, 商学部, 教授 (20555247)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 公会計情報 / 公共調達 / 費用便益分析 / インパクト評価 / エビデンスに基づく政策 / 官民連携 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的に示した財政削減や官民連携を促進するための公会計情報の活用方法について考察するために、2018年度は以下の研究を進めた。 まず、イギリスの地方自治体やソーシャル・インパクト・ボンドの事例調査を行い、「インパクト評価は公共サービスの質を改善するか?」及び「イギリスにおけるエビデンスに基づく政策と公会計」の研究論文を大学紀要等にて公表した。イギリスの地方自治体における公共調達責任者(コミッショナー)が、公会計情報をどのように用いて意思決定を行っているかを検討するとともに、日本でも内閣府等が導入を試みているインパクト評価を、公共サービスの効率化と財政削減に生かすための実践的な方策について考察した。 そして、公共調達の意思決定に公会計情報が果たす役割についてより議論を深めるために、「公共サービスの費用便益分析と公会計情報の活用―イギリスにおける公共サービス改革からの示唆」を専門雑誌(『産業経理』)に掲載した。イギリスでは費用については会計学的な考え方に基づく財政的価値により、また便益については経済学的な考え方に基づく公共的価値によって測定される傾向があること、公会計情報を意思決定のPDCAサイクルへと組み込むためには、施策の意思決定を行うコミッショナーの権限と責任が重要になることを明らかにし、日本の公的部門において公会計情報を費用便益分析に活用するための課題について考察した。 さらに、海外の研究者にも情報発信するために、これらの研究成果を含めて英語論文に取りまとめて、機関リポジトリによってウェブ上に公開した。また、オックスフォード大学で開催されたソーシャル・インパクト・ボンドの研究者及び実務者が参加する学術会議にて、明治大学の塚本一郎教授及びTraverse(旧 Office for Public Management)のChih Hoong Sin氏と共同報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年9月から1年間、ロンドン大学SOASでの在外研究に従事していたため、2018年度はイギリスにおける公会計情報及びインパクト評価の活用に関する研究を中心に実施した。そのため、研究実施計画に記載したイギリスにおける公共サービス改革について概ね計画通りに研究を進めることができた。 特に、インパクト評価は日本でも休眠預金活用等に導入することが予定されており、イギリスにおける先端的事例を調査して論文に取りまとめたことで、今後の政策推進に向けた有意義な提言ができたと考えている。さらに、厚生労働省が実施する「保健福祉分野における民間活力を活用した社会的事業の評価・運営事業」成果評価に関する有識者委員会の座長を務め、保健福祉分野の官民連携におけるインパクト評価の実践にも研究の知見を生かすことができた。 なお、吹田市等の日本の地方自治体における公会計情報の活用に関する研究は、地方公会計の統一的な基準が導入されたばかりで各自治体に事例の蓄積がまだ浅いことから、具体的な実践方法に関する検討はこれからであり、本研究課題の最終年度である2019年度に研究を進めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって、公会計情報を公共サービスの改善に生かすためには、資金使途に関する説明責任として用いるだけでなく、政策的意思決定のPDCAサイクルへと組み込むことが重要であると明らかになった。そこで、最終年度である2019年度では、吹田市とも協力・連携しながら、公会計情報を予算策定や資産マネジメントなどに活用する実践的な方法について、今後さらなる研究を進めるための糸口となる論点を整理したい。 そして、研究の成果を取りまとめて論文や学会報告として公表するとともに、部会長を務めている政府会計学会(JAGA)の西日本部会において行政実務者や会計専門家と意見交換をしたり、委員を務めている日本公認会計士協会近畿会の社会・公会計委員会とも情報共有を行ったりしながら、研究成果を実践の場にフィードバックすることに取り組みたいと考えている。
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