2016 Fiscal Year Research-status Report
リスクと「無知」の社会理論のための基盤研究―東日本大震災後の社会学の新たな課題―
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16K04026
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小松 丈晃 東北大学, 文学研究科, 准教授 (90302067)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 想定外 / 戦略的無知 / リスク |
Outline of Annual Research Achievements |
知識の社会学はきわめて高度な研究蓄積がある一方で、無知の社会学はまさに「忘れられた」研究テーマであったが、東日本大震災以後頻々と語られた「想定外」という言葉に象徴されるとおり「無知」は現代社会の鍵概念の一つであるとすら言える。そうした無知にアプローチするために、平成28年度は、当年度の研究計画に基づき、主として無知の社会学史的研究に取り組んだ。(1)特にU.ベックがみずからの理論にとっての核の一つとして位置づけていた「無知(Nichtwissen)」論について検討し、そこから「戦略的無知」論へと展開しうる可能性をさぐった(「U.ベックの「無知」の社会学―「戦略的無知」論に向けての展開可能性―」『社会学研究』98号,91-114頁および「「ウルリッヒ・ベックの社会理論」に寄せて」『社会学研究』98号、1-8頁)。それを受けて、(2)こうしたベックの議論やルーマン理論に触発されて生じてきている近年の社会学における無知研究、ならびに社会学的機能主義の伝統をもふまえながら、「無知」の多次元性、つまり無知の認知的次元・時間的次元・意図的次元に着目することの重要性を指摘し、具体的事例にも踏み込みつつ、社会学的な「戦略的無知」論により踏み込んだ論考を公刊した(「<無知>の社会学―無知の戦略的利用について」『現代思想』青土社、3月号、220-232頁)。また、(3)このような無知の多次元性に関する議論を手がかりにして、ゲストスピーカーとして登壇した「地震リスク」に関するワークショップ(名古屋大学環境学研究科主催)において、地震学による政治・行政への科学的助言を題材に、ある種の地震リスクが経済的理由による想定外とされていく(「戦略的な無知の活用」)さまを分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、「研究実績の概要」での触れたとおり、無知について論じた社会学説を、社会学的機能主義の伝統にまで遡って検討し、また、ベック、ルーマンといった主要な論者の学説、それに触発された現在の社会学における無知論(P/ヴェーリング、K.P.ヤップ、など)にも踏み込んだ考察を行うことができた。このように、当初予定していた平成28年度の研究計画は、ほぼ年度内に研究成果として遂行することができたと考えられる反面、当該年度の研究実施計画を上回る成果を出したとまでは言えないため、「おおむね順調に進展している」と評した次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)平成29年度は、「無知」研究として検討する対象を、社会学以外の領域にも広げ、科学史・科学技術社会論・人類学および法社会学の領域での無知研究の現状も参照する。この検討にさいしては、C.Engel,J.Halfmann,M.Schulte,hrsg.,Wissen-Nichtwissen-Unsicheres Wissen,Nomos,2002やN.Proctor,et.al.,Agnotology: The Making and Unmaking of Ignorance,Stanford UPなどの研究蓄積を手がかりにしながら、幅広くフォローする作業を進める。また、無知の「構築」的性質とそれゆえの問題(健康や生態系といった無知の「物質的」次元とのズレなど)を明らかにするために、(2)リスク規制の各領域ごとの「無知」(想定外)の扱われ方の相違を、具体的事例に則しながら考察する。同じ国家領域内部でもリスク規制の領域ごとに、また同じリスク規制領域でも国家ごとに、たとえばステークホルダーの参加の度合い、専門家の位置づけ、アカウンタビリティや透明性の要求される度合いなどに多様性があり、C.Hoodらの研究を手がかりしつつ、この点についても検討を加えたい。(3)無知や不確実性を伴うリスクをどのように処理するかという問題は、リスクガバナンスにとって重要な課題であり、頻繁に参照される国際リスクガバナンス評議会(IRGC)のリスクガバナンスモデルについて詳細な検討を加える。(4)また「科学と社会」の関係をより精確に追求するには「社会」の内実、すなわち従来の社会学で語られてきた「機能分化論」ないし「セクターモデル」の彫琢も必要となるため、補助的作業としてこの点の検討も今年度実施する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額として1582円あり、これが生じた理由は、購入予定の図書の一部に割引が適用されたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
このため、これは平成29年度に、図書購入費に充てる予定であり、平成29年度に合算して使用する。
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Research Products
(5 results)
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[Presentation] 地震リスクと二つの不確実性2016
Author(s)
小松丈晃
Organizer
公開ワークショップ「リスクをめぐる地震学×社会学
Place of Presentation
名古屋大学大学院環境学研究科
Year and Date
2016-08-23 – 2016-08-23
Invited
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