2018 Fiscal Year Research-status Report
河川をめぐる政策・法制度の変遷についての研究 ―近現代日本の社会変動を読み解く
Project/Area Number |
16K04041
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
田中 滋 龍谷大学, 社会学部, 教授 (60155132)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 繋がりと分断 / ダム / 水害 / 河川 / 受益-受苦 / 熊野詣 / 宗教 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、田中滋「河川、琵琶湖、盆地による<繋がりと分断>を考える」(牛尾他編『琵琶湖水域研の可能性』2018年所収)の発想を熊野川による流域の<繋がりと分断>に応用する研究をおこなった。熊野川では、戦後、多数の発電用ダムが建設されたことで、上下流が分断され、上流(十津川村など)は電源開発交付金の恩恵を受けるのに対して、下流(本宮町、熊野川町など)はダム水害のリスクや恒常的な濁水被害に曝されることになった。かつては河川舟運によって多面的につながると同時に、水害の恐怖をも共有し、「川丈筋」と呼ばれていた地域に<受益-受苦>という対立構造が埋め込まれた。2011年の台風災害では、十津川村はダム湖への山崩れにより発生した津波を問題視していないようであるし、下流市町村では、洪水被害をダム水害として立証し得ず、怒りに堪えるしかないという構図が生み出された。 また、平成30年度は、熊野川流域の自然と宗教・文化との関連についての文献研究をもおこなった。熊野川流域は、2004年に世界遺産(紀伊山地の霊場と参詣道)に指定された地域と広範囲にわたって重複している。本宮大社は中世に盛んとなった「熊野詣」の中心であるが、その背景には、そこへと到る道が険しい山と急峻な川に遮られているがゆえに、それを乗り越えることが「浄土」へと到る道となると信じられていたことがある。しかし、その厳しさは、江戸時代にお伊勢参りを含む巡礼一般が物見遊山としての性格を強めるとともに敬遠され、熊野詣を衰退へと導いた。 そして、近代においては、山や川のその険しさが発電用ダム建設の好適地とされ、多くのダムが建設され、地域間対立を生んだのである。今後は、脱ダムなどによる自然再生を進め、厳しくもあるがまさに雄大な自然の活用(厳しさやそこにスピリテュアルなものを求める巡礼の復活など)を考えていくことができよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成30年度は、研究協力者などと実施を予定していたフィールド調査を、調査日程の調整上の問題や研究代表者が研究科長としての学内業務に忙殺されたことなどで十分に行なうことができなかった。そのため、研究は文献研究が主となり、フィールド調査のための予算執行を平成31年度に回さざるを得なくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、長良川と熊野川での補足のフィールド調査の他に、これまでに収集された多様なデータ(インタビュー記録、史資料など)の分析を行ない、研究の総括を目指す。
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Causes of Carryover |
平成30年度は、研究協力者などと実施を予定していたフィールド調査を、調査日程の調整上の問題や研究代表者が研究科長としての学内業務に忙殺されたことなどで十分に行なうことができなかった。そのため、研究は文献研究が主となり、フィールド調査のための予算執行を平成31年度に回さざるを得なくなった。 平成31年度は、長良川と熊野川での補足のフィールド調査の他に、これまでに収集された多様なデータ(インタビュー記録、史資料など)の分析を行ない、研究の総括を目指す。
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Research Products
(1 results)