2018 Fiscal Year Research-status Report
非正規雇用の拡大と男性性変化-企業別シティズンシップによる排除と承認をめぐる葛藤
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16K04046
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
今井 順 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (30545653)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 男性性 / 非正規雇用 / 象徴的暴力 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度においては、まず英文研究書を完成させることができたことが挙げられる(Being Young in Super-Aging Japan:Formative Events and Cultural Reactions、Routlege社より)。前年度報告したとおり、編者との集中的な議論のおかげで、非正規労働に携わる若年男性の示す態度については、日本の雇用-福祉レジームに埋め込まれた特有の性別秩序を想定することでより理解を深めることができるとの認識に基づく調査・分析が有効であると、より自信を深めることができた。 もっとも、こうした議論に基づき行われるはずで、前年度においても既に半年程度の遅れが生じていた新たな調査については、結局行うことができなかった。主たる理由は、研究代表者が当該年度に北海道大学から上智大学に移籍したこと、また、介護の必要が生じていた父親が年度内に死亡したことである。 よって、理論の枠組み、調査の概要について大きな変更はない。現在の非正規雇用男性たちは、家族や職場の人々から積極的な「承認」を得られない社会空間で日々生活しており、彼らの様々な態度や行動がその中で承認を求めるものとして理解できる。非正規雇用男性たちは、モラトリアムを強調したり、(正社員男性には示すことのできない)使用者との対等な関係を強調したり、性別役割分業において保守的な姿勢を示すことで、それを達成しようとしている。支配的なイデオロギーを積極的に内面化することで自らの正当性を示そうとする戦略は、自らを劣位に置き排除しようとする論理そのものの中に自らを投企することであり、象徴的暴力の構造に自ら参加してしまうことに他ならない。 研究期間の延長を必要としてしまったが、新しい調査票調査を行う準備は概ね整っており、しっかり実行することで最終年度を締めくくる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
上記した通り、英文研究書の刊行については、編者との集中的な議論等により、大きな果実を得ることができた。非正規労働に携わる若年男性の示す態度について、日本の雇用-福祉レジームに埋め込まれた特有の性別秩序を想定することで、理解が深まることを示すことができたと言える。 こうした議論の深まりは歓迎すべきものであったが、新たな調査の準備については遅れたと言わざるを得ない。研究代表者が移籍(北海道大学から上智大学へ)したこと、年度内に父親が死亡したことなどから、実査が一年程度ずれ込んでいる。具体的な調査計画は、昨年予定したとおりの内容(正規・非正規労働者双方に相互の評価を聞いたりといった、企業別シティズンシップの概念をより生かす方向性)で概ね固まっており、夏以降実査ができるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在概ね設計が終わっている新しい調査の実査計画を詰め、今年度前期以降、実査に入りたいと考えている。調査対象企業の選択については、前回調査の経験から、コールセンターなど新しい産業における新しい組織にコンタクトをとることが望ましいことが分かっており、随時調査協力を求めていく予定である。一年程度の遅れが生じているが、今年度後半には初期分析の発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
研究代表者の移動と父親の死亡が重なり、実査に1年の遅れが出たことによる。今年度実行する調査と初期分析の発表で使用する予定。
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