2019 Fiscal Year Annual Research Report
The expansion of non-regular employment and the changes of masculinity
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16K04046
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
今井 順 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (30545653)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 男性性 / 非正規雇用 / 産業的シティズンシップ / 象徴的暴力 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は実査の予定を大幅に変更し、本研究の成果を取り込んだ著書の執筆を行うこととした。産業的シティズンシップ(その日本版としての企業別シティズンシップ)概念を用いた社会的不平等と排除についての研究は、本研究以外のプロジェクトにおいても、いわゆる正規・非正規格差の問題を中心に研究を進めていた。出版を薦める周囲の声もあり、産業的シティズンシップを中心に据えた社会的不平等の動態についての単著を執筆し、その主要な章の一つとして本研究の成果を取り込むこととした。 産業的シティズンシップとは、産業資本主義と福祉国家の蜜月にあって雇用関係の中に作られる地位の規範である。日本におけるそれを企業別シティズンシップと呼ぶ。基本的には正規雇用の制度化であり、企業別に異なる権利が付与され、女性を排除することでできあがってきた。よって企業別シティズンシップは基本的には男性の文化であり、石油危機以降労働運動の退潮が顕著になる中で、会社人間と揶揄された企業への従順な献身が義務の規範として定着したものである。残業や転勤の要請に応えることが当然に求められるようになっている。 産業シティズンシップ概念を用いたことによって、正社員に求められている能力が、単に企業で必要な能力というより、産業社会としての日本社会の市民として要求される能力だということを、明瞭に指摘することができるようになった。非正規雇用は、規制緩和の政治が企業別シティズンシップから切り離す地位として作った経緯から、この地位にある男性は、正社員男性に期待できるような機会と資源を、家庭はもとより自らの人生にすら持ち込むことができない(去勢されたライフコース)。しかし、一方でそれがシティズンシップとして正当性を帯びる規範であるからこそ、非正規雇用労働に就く男性は、自らを傷つける規範に自ら投企せざるを得ず、不平等と排除の構造を自ら再生産してしまっている。
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