2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K04049
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
玄 武岩 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (80376607)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 森崎和江 / 東アジア市民社会 / 連帯 / 在韓日本人女性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、森崎和江の思想の全体像を把握するために、森崎の各種著作および関連する研究書を検討する一方、東アジア市民社会および帝国日本における女性の移動をテーマにしたシンポジウムおよびワークショップを企画・開催した。 同7月29日に開催された国際シンポジウム「戦後日本の市民社会と東アジア-ベトナム反戦運動から東アジアとの『連帯』へ」には、オーストラリア国立大学の日本研究所所長サイモン・アベネル准教授およびメルボルン大学の小川晃弘教授を招待して、ベトナム戦争から東アジアの「連帯」について議論し、今後の研究活動の協力について話し合った。 9月26日にはワークショップ「帝国の解体と女性―断絶/連続する脱植民地の生活世界」を企画した。本代表者は「在韓日本人女性の戦後」のタイトルで報告し、森崎和江のいう「国境に近い女性の歴史」における「連帯」を歴史社会学的に考察した。また10月1日にはオーストラリア国立大学のテッサ・モーリス-スズキ教授を招き、シンポジウム「〈慰安婦〉と記憶の政治」を開催した。代表者は「『想起の空間』としての『慰安婦』少女像」というタイトルで報告した。平成29年2月19日にはワークショップ「帝国に残された人・物・映像」を企画し、森崎和江著『慶州は母の呼び声』の韓国語訳を手がける北星学園大学非常勤講師の松井理恵氏も参加した。 同2月21日~28日は、戦前より韓国で孤児を育てた田内千鶴子が運営した共生園および在韓日本人女性が暮らすナザレ園を訪問するなど、木浦・釜山・慶州のフィールド調査を行った。木浦にある田内千鶴子が園長を務めた共生園を訪れ、釜山では在朝鮮日本人の共同墓地に築かれた町・峨嵋洞および在韓日本人慰霊碑、そして戦後在韓日本女性を収容した小林寺を訪ねた。また慶州ナザレ園および森崎和江の父が校長を務めた旧慶州中学校(現慶州中・高等学校)にも足を運んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
森崎和江の越境する「連帯」の思想についての研究は、森崎和江の思想形成ならびに、その担い手である「国境に近い女性の歴史」の考察という二つのトラックで進められる。思想研究の基礎となる文献の考察を進めているところであるが、著作物が膨大であるため、これらの著作物から東アジアにおける「連帯」の思想をどのような軸にそって組み立てるかがカギとなり、それについて検討中である。 一方、「国境に近い女性の歴史」として注目するのが日本軍「慰安婦」および在韓日本人女性(慶州ナザレ園・田内千鶴子・西山梅子)である。在韓日本人女性として帰国しその歴史的存在性について日本政府に訴えかけた西山梅子は、本代表者が研究分担者として参加した科研費基盤研究(A)「帝国日本の移動と動員」(研究代表者 今西一)における調査とも絡んでおり順調に進んでいる。共生園や慶州ナザレ園では園長と面談するなど重要な成果をあげ、在韓日本人女性の歴史的解明に向けて研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、本代表者が海外研修を行う関係で、森崎和江の著作の読み込みが中心となる。ただ、東アジア市民社会の「連帯」について、オーストラリア国立大学のサイモン・アベネル准教授やテッサ・モーリス-スズキ教授とは問題意識を共有しており、そこでの交流をとおして「連帯」の概念を精緻化し、今後の東アジアにおける市民社会のあり方について議論することになるだろう。 こうした共同作業の一環として、2017年6月末にオーストラリアのウロンゴン大学で開催されるオーストラリ日本研究学会(Japanese Studies Association of Australia)で、本代表者およびテッサ・モーリスースズキ教授、そしてウロンゴン大学のローサ・リー教授が「日本の民主主義を論じる」というテーマでパネル討論を行う予定である。 なお、東アジアにおける市民社会の現状を踏まえたうえ、日韓で争点となっている「慰安婦」問題の解決に向け、多くの被害者を抱える東南アジア各国ではどのような経緯によって日韓の対立とは異なる方策が探られてきたのか、市民社会の形成過程に絡めて明らかにする。そのためにオーストラリアから地理的に近い東南アジアでのフィールド調査も予定している。
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