2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K04049
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
玄 武岩 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (80376607)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 森崎和江 / 在韓日本人女性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、本研究代表者がオーストラリア国立大学(ANU)にて在外研究を実施した関係で、森崎和江の著作の読み込みを集中的に行うとともに、論文の執筆に努めた。論文執筆は本研究における二つのテーマ、つまり森崎和江の越境する連帯の思想に関するものと、在韓日本人女性の歴史について考察したものである。 これまで個別に論じられてきた森崎和江のテクストを、「越境」を中心に据えて読み直し、アジアの女性たちが織りなす交流の歴史に導かれる、連帯の思想を貫く「越境」の意味をあぶり出すことを目指す論文は、現在投稿中で査読が進められている。もう一つのテーマの論文「在韓日本人女性の戦後-引き揚げと帰国のはざま」は今西一・飯塚一幸編『帝国日本の移動と動員』(大阪大学出版会、2018年)に所収された。 また、ANUのテッサ・モーリス-スズキ教授を招いて平成28年度に行ったシンポジウム「<慰安婦>と記憶の政治」の記録を『「慰安婦」問題の境界を越えて』というタイトルで寿朗社からブックレットとして出版した。 一方、在外研究先のオーストラリア滞在中には、現地の研究者および海外の研究者との交流を深め、オーストラリア日本学会やANU日本研究所・韓国研究所主催のセミナーで発表した。さらに、一時帰国中には、1960年代から在韓日本人女性に関するルポや映像作品を残した作家の藤崎康夫氏および報道写真家の桑原史成氏にインタビューを行い、資料の提供を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
森崎和江の膨大な著作物から東アジアにおける「越境」する連帯の思想をどのような軸にそって組み立てるのかが課題であった。それは、これまで個別に論じられてきたテクストを「越境」を中心に据えて読み直すことで展望が開いた。森崎の精神史の旅が、「原罪」を背負い、問い直し、そして葬り去るための長い道のり、つまり<原罪を葬る旅>として位置づけたのである。こうした方法的視座によって、東アジアに向けた越境する連帯へと収斂する森崎和江の思索と実践を明らかにすることができた。 「国境に近い女の歴史」としての在韓日本人女性の研究も、本代表者が研究分担者として参加した科研費基盤研究(A)「帝国日本の移動と動員」(研究代表者 今西一)における研究テーマの延長であり、上記の同共同研究の成果の一部として発表した(「在韓日本人女性の戦後-引き揚げと帰国のはざま」)。同論文を今後新書として出版するため、報道写真家の桑原史成氏に未発表の写真の提供を受け、準備を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、森崎和江の思想研究に関するこれまでの研究成果を国内学会および国際学会で発表する一方、在韓日本人女性については報道写真家の桑原史成氏と協力して新書での出版を目指す。 2018年6月に開催される移民学会28回年次大会(南山大学)で、「森崎和江の越境する連帯の思想-植民者二世の〈原罪を葬る旅〉」という題目で個人発表を行う予定である。また、同10月に中国上海で開催される「第6回 東アジアと同時代日本語文学フォーラム2018」(復旦大学)には、森崎和江を研究する日本・韓国の研究者らとともにパネルセッション「森崎和江の越境する連帯の思想」を組んで参加する予定である。 なお、紙幅の関係で研究成果の一部を論文としてまとめた「在韓日本人女性の戦後」については、新たな資料を発掘し、報道写真家の桑原史成氏とも協力して書籍化を目指す。そのために出版社との交渉を行う。
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