2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K04054
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
井上 孝夫 千葉大学, 教育学部, 教授 (10232539)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地下水 / 共同浄化槽 / 白神山地 / 河川敷 |
Outline of Annual Research Achievements |
地下水、生活排水、登山、河川敷にかかわるコモンズの現実の利用形態を調査し、検討した。これらの個別事例を集約して導かれたことは、共通資源としてのコモンズの利用原則は自由利用であるが、共同利用によって個々の利用者が安定的で、より大きな利益を享受することができる場合には、団体を組織して利用主体とすることもあり得る、ということである。 ここで取り上げた事例でいう「団体」とは、地下水の場合は水道利用組合であったし、共同浄化槽の場合は自治会であった。また、白神山地の核心地域における登山の場合は、「白神山地世界遺産地域連絡会議」が定めた要領に基づいて届け出制による入山の権利が保証されることになった。さらに河川敷の場合は、公的団体による占用が一定の条件のもとで認められ、さらに市町村による包括的占用や、区域によっては民間事業者による特例的な占用も可能になっている。 以上のような検討の結果、コモンズの利用者を暗黙裡に閉鎖的な村落として想定するような議論は不適切であることが確認できる。コモンズの担い手はまず、市民社会を構成する個人であり、それと同格の公的性格をもった団体(ゲゼルシャフト)であることを確認しておかなければならない、という点であり、ここに現代コモンズ理論に向けての展望が切り開かれることになった。 また、以上の4事例のうち、花見川の河川敷の不法占用問題については継続して調査を実施しているが、不法占用の解消が公的機関による河川敷の囲い込みのような状況になっていることを確認し、その打開への道を探っていくこととした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
河川敷の事例を中心にして、コモンズの利用形態を実態的、理論的に検討したが、河川敷に関してはほぼ核心的な問題にたどり着くことができた。一つには、不法占用が発生する背景には管理の甘さがある、という点である。それゆえに積もり積もった緊張が最後には強制撤去という手段によって解消することにならざるを得ないのである。そういった事態を見越して、例えば包括的占用制度を利用して公的な渓流釣りの施設を設置すれば、コモンズにふさわしい管理と利用への道が開かれていくだろう。もう一点は、今日的な基準でいえば「不法占用」に相当するような事例が野放しにされている現状があることである。それは河川敷におけるゴルフ場や自動車教習所などの設置である。これは旧河川法時代の名残(既得権)ともいうことができるが、私的企業への便宜をはかるという側面が強くあり、そのあり方については幅広い議論が求められているはずである。いずれにしても、「コモンズとしての河川敷」という場合、こうした旧法時代の残存形態の変更が求められているわけで、その点への打開策がなければ、河川敷はコモンズとは呼べないのである。 こうして、現代のコモンズ理論は「社会の共通価値の実現」という位相へと展開することになった。その点を見越して、前年度は「国立マンション訴訟」の事例を検討したが、今年度は4人の方々に「連携研究者」あるいは「研究協力者」として関連するテーマで論文を提出していただき、『コモンズと地域コミュニティ』と題して刊行することができた。 以上のように、事例研究をつうじて、現代のコモンズのあり方に関わる核心的問題を絞り込み、その課題に対して理論的な展望を一定程度得ることができた。そしてそれによって、最終年度のまとめに向けて順調に推移していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年度に当たるため、次の三点に絞って検討し、研究全体をまとめていく。 (1)河川敷調査の主要な事例として取り上げた花見川の不法占用問題について、継続して調査を行ない、問題の根本的な解決策を検討する。対照事例として旧大横川の公的な釣り場などとの比較を試みる。 (2)河川敷利用の根本問題の一つとして、河川敷ゴルフ場の歴史的な経過を跡付け、行政や当事者の対応について問題点を明らかにしていく。 (3)当初計画で触れていた民有地におけるコモンズ的な利用形態の事例調査を行ない、河川敷利用との比較を試みる。 以上によって、入会地利用的なコモンズから脱却した現代コモンズ理論をまとめていくこととしたい。
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Research Products
(5 results)