2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K04063
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Research Institution | Institute on Social Theory and Dynamics |
Principal Investigator |
猪股 祐介 特定非営利活動法人社会理論・動態研究所, 研究部, 研究員 (20513245)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 満洲移民 / 引揚げ / 遺族会 / 中国帰国者 / 被差別部落 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は岐阜県黒川開拓団、郡上村開拓団、長野県泰阜開拓団、熊本県来民開拓団の関係者よりインタビュー調査をすることで、各開拓団の満洲引揚体験の記憶化の担い手に着目してこれら開拓団の類型化を試みた。 黒川開拓団では遺族会が記憶化の主な担い手であり、近年は未婚女性にソ連兵の性的相手を強要した「接待」とそれを顕彰した「乙女の碑」をめぐり、引揚体験が語られることが明らかとなった。郡上村開拓団では遺族会が解散状態にあり、かわって、たかす開拓記念館が、北海道開拓・「満洲開拓」・戦後開拓の連続性において満洲移民体験を記憶化していることが明らかとなった。泰阜開拓団では泰阜村が中国帰国者支援を続けてきた経緯から、現在も満洲移民体験の語り継ぎに積極的に関わっていることが明らかとなった。泰阜村で長年介護福祉の要職を務めたAが、満洲移民体験者の状況を把握しており、Aがこの語り継ぎに関わっていることが、泰阜開拓団がいまなお語り継ぎの活動を続けている原動力であることが窺えた。来民開拓団では、被差別部落への差別発言をもとに、戦時下融和事業の一環として送出された唯一の開拓団であることが解明された経緯から、部落解放運動が記憶化の担い手であり、人権教育のなかで満洲移民体験が語られることが明らかとなった。 このように各開拓団は、満洲引揚体験の担い手によって、黒川開拓団の遺族会主導型、郡上村開拓団の自治会関与型、泰阜開拓団の自治体主導型、来民開拓団の社会運動主導型の4つに類型化できることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度はこれまで調査してきた開拓団を比較することによって、「満洲引揚体験の記憶化」について類型化を図れたことで大きな理論的な前進がみられた。黒川開拓団の遺族会主導型、郡上村開拓団の自治会関与型、泰阜開拓団の自治体主導型、来民開拓団の社会運動主導型の4つに類型化し、それぞれどのような経緯を経て現在の記憶化に結実しているかを関係者にインタビューでき、各類型の特徴を剔出できた。 黒川開拓団では未婚女性にソ連兵の性的相手を強要した「接待」がマスコミで盛んに報道されるようになり、「乙女の碑」に縁起碑を設置する運びとなった。その過程で被害者やその遺族、被害者を支えてきた元団員、その他の一般団員が満洲引揚体験をいかに振り返っているかを聞き取る機会が得られ、遺族会内部でも縁起碑に対して賛否が分かれていることが明らかとなった。 泰阜開拓団では泰阜満蒙開拓を語り継ぐ会が結成され、地元中学校の出前授業や泰阜村役場のサイトから満洲移民体験を発信する試みなどに着手している。満洲移民体験者が物故するなか語り部の育成が急務となっているが、その先駆的な取り組みが明らかとなった。 このように事例間の比較や、各事例内部の差異についてはインタビュー調査によって明らかになったが、それを分析する理論枠組はいまだ定まっていない。インタビュー調査の実施や取りまとめに追われて、ポストコロニアリズム研究等の理論に関する文献調査は全体的に遅れ気味である。また戦友会の研究など、戦争体験の記憶化に関する文献調査も不足している。満洲引揚体験集の収集も各開拓団へのインタビューの過程で進んだものの、まだ十分とは言えない状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、過去3年度の研究成果を集大成する翌年度に備えるべく、全ての文献調査とフィールドワークを終える必要がある。これまでの年度以上に集中的に調査を行い、それと並行して満洲引揚体験の記憶化の複雑性を分析可能とする理論構築を行う。 文献調査では、満洲引揚げに関する小説や聞き書き等の集合的記憶と深く関わる資料の収集はだいぶ進んでいるが、まだ調査が足りていない資料として、満洲引揚げや引揚者支援の政策に関する公文書及び理論構築のためのジェンダー・ポスト構造主義・ポストコロニアリズムの研究書が挙げられる。前者については国会国立図書館に加えて、滋賀大学経済経営研究所始め各大学所蔵の満洲引揚資料の収集・分析を行う。後者については『戦争と性暴力の比較史へ向けて』シンポジウム・研究会等への参加を通して、近年の理論研究の展開を把握した上で、戦時性暴力の語りから戦後日本のナショナル・ヒストリーに至る満洲引揚体験の記憶化の分析に有効と考えられる研究書の収集・分析を行う。 フィールドワークでは、満蒙開拓平和記念館・舞鶴引揚記念館等の満洲引揚げと深く関わる平和記念館における「語り部養成事業」を中心に、「満洲引揚体験の戦後世代への継承」を持続可能とする歴史実践を明らかにすべく、関係者へのインタビュー調査等を行う。また2016年度頃より「満洲引揚げ」を扱ったドキュメンタリ番組等が定期的に製作されるようになり、それら番組にて戦時中青年世代がこれまで沈黙してきた満洲引揚体験を証言する場面が放送されるようになった。これらテレビを始めとする近年のマスコミ報道が、体験者の語り・共同体(開拓団、記念館、地域社会)・国家における引揚げの記憶をいかに変容させたかを明らかにすべく、証言者を中心に関係者へのインタビュー調査を行う。
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Causes of Carryover |
フィールドワークの実施と取りまとめに追われて物品購入まで手が回らなかったため、次年度使用額が生じた。用途としては書籍等の物品購入にあてたいと思う。
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