2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K04067
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
材木 和雄 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70215929)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ボスニア / 企業民営化 / 縁故主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
ボスニア・ヘルツェゴヴィナでは内戦後の20年間、極度の就職難が続いている。労働力人口の半数は失業者である。若者の失業率は60%を超える。内戦後の就業人口は内戦前に比べて4割も減少した。 大量の雇用喪失はユーゴスラヴィア連邦解体と内戦の影響によって生じた。統一的な国内市場を失った企業の多くは倒産した。内戦時に破壊・略奪され営業を停止した企業も多い。さらに内戦時には民族的理由による従業員の解雇も多くの失業者を生み出した。しかしその後の失業問題には内戦後の要因がある。第1に難民の帰還が進み、失業者が増加したことである。第2にリーマン・ショック以降の欧州経済の不況の影響を受けて企業倒産が増加したことである。第3に企業民営化の否定的な影響である。民営化後の企業倒産によって少なくとも数万人規模の失業者が発生した。 他方、就業機会の不足は昔からの悪しき慣行を助長している。それは縁故採用である。就業機会の不足の故に縁故就職に頼る者が増えるが、そのために縁故を持たない者はますます就職が困難になる。 本年度はボスニア連邦の基礎自治体を訪問し、住民が就職難にどのように対応しているのかを調べた。住民の対応は民族的に分かれる。この地域で政治的マイノリティのセルビア人はセルビア人共和国への移住を選んだ者が大半である。そのため、ボスニア連邦では内戦後にセルビア人の人口が激減した。ボシュニャク人とクロアチア人も基礎自治体のレベルで政治的マイノリティの場合にはマジョリティの地域へ移住する者は多い。しかし、セルビア人との違いは、元の居住地に住宅を残して移住する者も多いことである。彼らは国内外の就業地から週末に自宅に戻る者も多いし、少なくとも1年に数回は自宅に戻っている。このため流動的な人口が多い。流動人口を含めた人口実態は、定住人口を調べた2013年人口センサスの結果と食い違いがある。このことは重要な発見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではユーゴスラヴィアの各地域を対象に5つの課題を設定した。第1にこの20年間に起きた大量の雇用喪失の原因の究明である。第2に雇用創出が困難な原因の分析である。政府はどのような雇用促進政策をとってきたのか。この地域のビジネス環境はどうなのか、何が投資の呼び込みや新規開業を阻んでいるのかを分析する。その上で投資の呼び込みや起業を促進するにはどのような障害を除去し、促進策をとるべきなのかを明らかにすることである。第3に政党雇用の実態・背景と是正策の解明である。この地域には極度の就職難とは真逆の現象がある。政府機関や公営企業などの公的セクターで一部の人びとが縁故採用によって容易に就職していることである。これは現地で「政党雇用」と呼ばれる現象である。その実態、背景的要因、是正のための課題を明らかにする。第4に就業促進策と経済成長戦略である。EU諸国や日本など他国の成功例に学びながら、就業率を改善するためにどのような雇用促進策をとることができるか。この地域の資源を活かした産業(観光業や農業)を発展させるためにどのような経済成長戦略を立案し、地域振興と就業機会の創出を実現できるのかを検討する。第5に健全な政治経済社会へ移行するための改革課題の究明である。就職難の原因と効果的な打開策が出てこない原因を探っていくと政治の質の問題にぶち当たる。政党雇用の背景的要因を調べていく場合もそうである。そこには移行期の国家に特有の構造的な問題が潜んでいる。たとえば政治腐敗であり、民主主義の機能不全である。これを明らかにし、健全な政治経済社会に移行するための改革課題を明示する。 以上の点について、本年度はボスニア・ヘルツェゴヴィナについて資料収集を行い、実態を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は引き続きボスニア・ヘルツェゴヴィナを対象に上記の研究課題を遂行する。この国では就業機会が絶対的に不足している。しかも、政党雇用と呼ばれる縁故採用が横行し、それが縁故をもたない者の就職をいっそう困難にしている。この点ではクロアチアと共通するが、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの場合には地域別・民族別に住民の対応は異なる。ボスニア連邦ではセルビア人は政治的マイノリティであるため、セルビア人が大多数を占めるセルビア人共和国に移住する。しかし、ここでも就職難であるため、外国への移住に向かう。セルビア人共和国ではボシュニャク人とクロアチア人は政治的マイノリティであるため、国外に移住する。ボスニア連邦では基礎自治体のレベルでボシュニャク人とクロアチア人は政治的マジョリティになったり、政治的マイノリティになったりする。場合によっては拮抗した人口比率の地域もある。しかし、いずれにせよ、縁故を持たない者は外国への移住に活路を見出すしかない。しかし、セルビア人との違いは、元の居住地に住宅を残して移住する者も多いことである。セルビア人共和国から外国に移住するセルビア人の場合はどうか。彼らはボスニア連邦のボシュニャク人とクロアチア人のように流動人口になっている者がどの程度いるのか。これを現地調査によって確かめ、就職難に対する住民の対応の全体像を明らかにすることを本年度の課題としたい。
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Research Products
(1 results)