2017 Fiscal Year Research-status Report
インド都市部における若年貧困層の「就業力」育成と不平等に関する開発社会学的研究
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16K04080
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
佐藤 裕 都留文科大学, 文学部, 准教授 (40534988)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 都市貧困 / 中産階級 / 若年層 / 社会移動 / フォーマル・セクター / インフォーマル・セクター / ジェンダー規範 / カースト差別 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度にはまず5月にアーメダバード市を訪問し、若年低所得層に対して職業訓練を展開しているNGOでの聞き取りを行った。それによりフォーマル・セクターでの就業機会の拡大、職業訓練への参加や就業の障壁となる家族・世帯や近隣でのジェンダー規範などに関する理解を深めた。これらの知見をふまえて、8~9月にはNGOであるSaath(サート)が展開する職業訓練センターのうち3箇所にて質的調査を実施した。これら3つのセンターが立地する地区は、それぞれムスリム集住地区、零細自営業者や下級公務員が居住するヒンドゥー集住地区、インフォーマル・セクター労働者が多いヒンドゥー集住地区である。 調査では、まず各センターで(1)販売接客業コースと(2)美容師コースに参加する訓練生に分けて当事者参加型調査を実施した。さらに(1)については、男性の訓練生が一定数いるセンターでは男女のグループに分けた。次に、各センターにて5名前後の現訓練生に対して個別インタヴューを実施した。 調査の知見は次のとおりである。1つはフォーマル・セクターへの参入を動機づける属性要因である。たとえば、男性にあっては社会的上昇のためには過剰な労働を甘受する一方で、婚姻後には女性は主婦であるべきとする規範が強く残っていた。女性にあっては、世帯・家族ならびに近隣での就業に対する制約がムスリム・ヒンドゥー問わず共通することが確認できた。2つは、特定の職業に対する忌避意識である。男女問わず接客業に付随する清掃作業が、何世代にもわたって出身カーストが担ってきた被差別的な生業を想起させることから離職者が多い問題や、ムスリムにあっては散髪が忌避されるべき行為であることから、美容師コースへの参加が憚られるという問題である。 以上から都市低所得層、とくに女性が社会的上昇を企図する際に顕在化するジェンダー規範やカースト差別の内面化が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
最大の理由は家族に不幸があったため、当初計画していた年末年始そして春季休暇中のインドでの現地調査が不可能になったことである。加えて、平成29年度には本務校で2年任期の教務委員になり、秋学期から春季休暇時まで次年度科目の調整や非常勤講師の手配、毎週の会議などの業務のため多忙をきわめた。このことから、質的データの分析が予想以上に難航した。 その一方で、とくに8~9月のインド訪問時にはスムーズに調査を開始することができ、さらに予想以上に多いインタヴューを実施し、NGOの職員や現地の社会学者との密な交流も果たすことができた。試論ではあるが、「インドにおける貧困問題と支援の動向」(『社会福祉研究』第131号、2018年4月)と題した拙稿では、上記の「研究実績の概要」に記載の知見を盛り込むことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度にはグループおよび個別インタヴューに区切りを付け、質問紙調査の設計と実施、そしてNGOの職業訓練センターでの参与観察に着手したい。同時に、これまで滞っていた研究成果の発信を以下の手順で進めていきたい。 (1)現在執筆中の調査協力先のNGO、Saathへの調査報告書の早期提出。これは平成30年度に行う予定の学会報告や投稿論文の執筆の基礎となるものである。 (2)目下、国内と国外での学会に向けて準備中である。国内学会ではSaathによる職業訓練の困難を家族や地域コミュニティに残存する女性隔離の規範に着目しながら、貧困と文化的自由の二律背反関係を質的に検討した報告をおこなう予定である。海外の学会では、低所得層の若者たちが抱きはじめている中産階級への憧憬に着目し、親世代まで低所得層および低カーストのあいだで規範であり続けた公務員としてのキャリアパスが弛緩している現状と、民間部門への就労を通じた社会移動の可能性、さらにはその一方で進行する正規雇用や労働の搾取の実態についても報告する予定である。 以上のような報告書執筆と学会報告をふまえて、国内の国際開発分野、そして海外の社会学分野の学術誌に論文を投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
家族に不幸があったためインドでの現地調査を断念せざるをえない時期が続いたことと、本務校での学内業務の多忙化にともない現地調査や学会報告が困難になったため。平成30年度には繰越額を現地調査と学会報告のために費消したい。
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[Book] Identity, justice and resistance in the neoliberal city2017
Author(s)
Gulcin Erdi, Yildirim Senturk, Nicolas Pinet, Yutaka Sato, Bruno Cousin, Ebru Soytemel, Ophelie Veron, Goze Saner, Saniye Dedeoglu, Chantal Butchinsky, Dan R. Levy and Claudia B. Rodrigues
Total Pages
292 (37-62)
Publisher
Palgrave Macmillan
ISBN
978-1-137-58631-5