2017 Fiscal Year Research-status Report
直系制家族の持続を可能にする諸要因の解明:長期反復調査資料の保存と活用を通して
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16K04081
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Research Institution | Yamanashi Prefectural University |
Principal Investigator |
堤 マサエ 山梨県立大学, 公私立大学の部局等, 名誉教授 (50105970)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 農村家族 / 持続と変動 / 長期反復調査 / 直系制家族 / 世代継承 / 生活分離 / 家族変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の主な実績は、第一には、第7回面接調査を実施したことである。長期反復調査を有効に活用し、第6回調査(1997年)以降の対象世帯の実態を把握した。直系制家族の世帯構成の変化を確認し、居住形態、世代継承、農業経営、親世代の介護と看取り、世代間支援、権限移行、あとつぎ問題等について、聞き取り調査をした。本年度の調査から明らかになった対象世帯の主な知見は、次の2点があげられる。1、最初に調査が行われた1966年すべてが二世代夫婦世帯・直系制家族であった世帯が、108世帯中61世帯確認できた。夫婦のみの世帯は26世帯(今後二世帯になることが予想される世帯もされない世帯も含める)一人世帯は10世帯、絶家は7世帯が確認でき、調査不能、拒否は4世帯であった。しかし、20年前に行った6回目の調査以降、直系制家族は多様になり、一様に直系制家族と語れない状況である。50余年経た今日、対象の世代を第一世代とすると5世代目が9事例見出された。2、「家」の継承意識について、1997年調査では、長男の跡継ぎ志向、農業継承志向が強かったが、今回の調査では多様化した。長男が妻の実家に入り、家名を妻側にし、次男が後を継ぐ事例、長女が離婚して親の元に帰り、親の介護を行い、長男が転出している事例、婚出した長女の子ども・孫(4世代目の外孫)が跡継ぎになる事例などが確認され、跡継ぎが多様になってきた。 第二には、資料の保存に関して、昨年に引き続き、6回にわたって行われた長期反復調査資料の整理と活用保存に向けた電子化作業を行った。今年度は、1981年、1979年資料の詳細な生活記録を活用可能にした。さらに、全世帯の5世代にわたる家系図を描き、家族の変化をわかりやすい形で記録した。これによって、今日では得難い既存資料を保存、次の活用に繋げることが出来る見通しができたことの意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
同一の対象世帯が50年余の間にいかなる世帯構成の変化を遂げ、持続させてきたかの実態を見出すため、面接調査を企画した。長期反復調査であるため、世代交代をしていて、対象世帯を確認するにもいくつかの困難な問題があった。 1.対象世帯108事例の確認をするため、調査依頼状を出す前に、地域のリーダー、識者に調査協力を依頼し、対象地域の識者(民生委員等)から、地域の状況と対象世帯をめぐる概況(調査可能か否か)等の聞き取り調査を行った。これによって、地域の概況と対象世帯の主な状況が把握でき、調査依頼状が出せる世帯が確定した。 2.対象者が高齢になり、住民基本台帳で確認した対象世帯の存否の状況は世帯主・夫世代の半数が逝去のため、世帯の誰に聞くかを定めることができない。そこで、基本は存命であれば対象者、またはその配偶者妻、あるいは次世代に面接することとした。 3.依頼状を出したところ、ほとんどが了解であったが、「高齢で答えられない」などの拒否的な連絡もあった。しかし、調査の許諾があり、実際に訪問してみるとそれほどではなく歓迎ムードの世帯もあり、調査終了にはなごやかな世間話や先代の思い出話に時間を費やすなど、何世代にもわたる調査交流、信頼関係が確立している研究の良さもあった。 とても100世帯近くの面接調査を農閑期の2-3か月の間に可能とは予想しなかったが、以上のような、状況を克服し、実査ができたことは順調に遂行できたといえる。このことは長年の研究者の地域貢献、信頼関係ができていることによる証拠でもある。 さらに、膨大な資料の電子化作業は、昨年に引き続き、今後の活用に繋げるために研究遂行期間の完成を目指して継続して取り組み、専門家の援助も得ながら順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、日本の伝統的な要素を多く残す直系制家族に焦点を当て、その実態を明らかにすることから、日本家族の持続と変化、そこに潜む日本の文化的特徴を探っている。本年度は、52年前(1966年)に初めて行った二世代夫婦同居世帯・直系制家族と同じ対象世帯に再度面接調査を行った。変動の激しい現代において、伝統と近代を同居させながら存在する農村直系制家族の実態は、従来の社会学、家族研究の理論枠組みでは語れないほどの多様さを示していることが明らかになった。家族の変動は現実の社会の変動とともに予想されるところあるが、今までの社会学、家族理論を基礎に再検討をする必要に直面しているように思われた。 本研究の今後の分析手法として、1997年調査で確認できていた事例を今回の調査で確認する作業がある。跡継ぎが継承している事例は43例、決定しているが同居していない48事例、決まっていない13事例であった。それを、1長男、2既婚・未婚、3同・別居、4農業の4項目に分けると12分類できた。今後、この分類によって継承の詳細な実態を分析する。例えば、誰が「人」、何を「もの」、どのような考え「意識」で、世代継承をしているかなどの詳細な分析を今後行うことによって、具体的な持続を可能にする諸要因を見出すことが可能となる。 既存の6回の長期反復調査結果と今回実施した調査結果を連結し、日本の伝統的な家族の持続と変化から、日本の基層にある文化的な特徴を探りたいと考えている。詳細な調査結果をもとに、現在の状況を把握するには多くの時間、そして、インテンシヴな調査が必要である。今後の推進方策は、本年度の調査結果の整理、検討、分析とそれをもとに現代家族研究の理論的再検討、家族概念の再検討が求められる。
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Causes of Carryover |
(1)既存資料が膨大であり、データベース化作業による資料保存は時間と費用が必要である。また、その有効活用のためのデータベース化を検討する。(2)前年度の作業継続、精緻化と分析が必要である。(3)今年度実施した面接調査から、さらにインテンシヴな面接調査を行うことが有効な事例には再度調査を実施する。(4)今後に向けて、国際比較研究に向けた研究枠組みの検討をする。
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