2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K04100
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
五十嵐 智子 (澁谷智子) 成蹊大学, 文学部, 准教授 (90637068)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ヤングケアラー / コーダ / 若者ケアラー / 子ども支援 / ケアラー支援 / 手話 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、『ヤングケアラー――ケアを担う子ども・若者の現実』を中央公論新社から刊行し、朝日新聞やTBSラジオなどのメディアを通して、多くの反響を得ることができた。『週間読書人』(3253号「ケアや介護を担う子たちの持つ力」)や『月刊福祉』(2018年12月号「ケアをしている子どもとケアを受けている親への配慮」)にも著者として執筆する機会を頂いた。 ヤングケアラーへの社会的関心が高まりつつある今日の日本の状況は、イギリスで「ヤングケアラー」という言葉が広まった1990年代半ばのイギリス社会と重なる部分があり、日本家族社会学会第28回大会では、「ヤングケアラーと障がいのある親たち――1990~2000年代のイギリスにおける「ヤングケアラー」をめぐる議論」を発表して、障害のある親の権利とヤングケアラーの子どもとしての権利が激しくぶつかり合った当時のイギリスの論争について説明した。 南魚沼市では、教育委員会と共にヤングケアラー研修会「ヤングケアラーの子どもがいたら…?」を実施し(2018年9月6日)、ヤングケアラーとは何かを伝えるための寸劇を、成蹊大学文学部現代社会学科澁谷ゼミの学生たちと上演した。 また、祖母を6年以上もの長期にわたって介護した元ヤングケアラー2人のインタビューに基づき、論文「ヤングケアラーの視点から養護者支援を考える」を『高齢者虐待防止研究』第15巻第1号に掲載した。 2019年2月には、イギリスでヤングケアラー支援を行っている「ウィンチェスター・ヤングケアラーズ」のベン・ホグビン氏とアリソン・クロス氏を招き、東京の成蹊大学と南魚沼市で、ヤングケアラー支援のシンポジウムを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
南魚沼市では、南魚沼市教育委員会と成蹊大学文学部現代社会学科澁谷ゼミの学生たちが協力し、六日町小学校で開催されたヤングケアラー研修会「ヤングケアラーの子どもがいたら…?」において、ヤングケアラーとは何かを伝えるための寸劇「愛子さんの一日」を上演したが、その検討の中で課題も明らかになった。すなわち、今回の研修会の対象者は教育関係者や行政関係者であったが、この劇を小学校高学年の子供たちに見せる場合、たとえば「お母さんにはうつ症状があります」といった説明は小学生には理解しにくいものであるなどの指摘を頂いた。この劇を児童・生徒が理解できるようにするためには、より具体的な描写を入れ、南魚沼市の子どもの生活に即した内容を改変する必要があるため、補助事業期間延長を申請した。 一方で、著書の刊行による研究の進展は予想以上で、さまざまな媒体でヤングケアラーについて執筆したほか、厚生労働省平成30年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」検討委員会の委員長を務める、世田谷区高齢福祉部高齢福祉課主催ヤングケアラー若者ケアラー支援者向けシンポジウム(2018年7月30日開催)の基調講演者としてパネルディスカッションをコーディネートするなどの機会を頂いた。さらには、本を読んだ元ヤングケアラーが連絡をしてくれることも増え、元ヤングケアラーや若者ケアラーへのインタビュー調査も進んだ。 この両方を受けて、総合的に「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、南魚沼市において、ヤングケアラー支援を実践していくためのツールとしての寸劇「愛子さんの一日」を、元ヤングケアラーやスクールソーシャルワーカーの視点を入れて書き直す。そして、修正された脚本を基に、子ども・若者育成支援センターの家庭教育支援チーム「だんぼの部屋」のスタッフの協力を得て、9月に小学校5~6年生に対して劇を上演し、子どもたちのフィードバックを得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
寸劇の脚本の精緻化が必要となったため、申請者が再度南魚沼市の教育委員会を訪れてスクールソーシャルワーカー等と打ち合わせをする費用、家庭教育支援チームのスタッフに成蹊大学に来て頂いて打ち合わせをする費用等を確保するべく、2018年度に使用する予定だった物品費等を使わずに次年度に繰り越した。次年度使用額はこれらの旅費に充てる予定である。
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