2017 Fiscal Year Research-status Report
日本と台湾の油症被害者の受容克服過程と救済制度、環境運動の比較環境社会学的研究
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16K04109
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
堀田 恭子 立正大学, 文学部, 准教授 (20325674)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇田 和子 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (90733551)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 油症 / カネミ油症 / 台湾油症 / 食品公害 / 被害者運動 / 支援者運動 / 救済制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は日本と台湾の油症事件に関わる制度の実態ならびに被害者運動・支援者運動を中心に中間的なまとめを行った。計画では日本と台湾の油症被害者へのアンケート調査実施のための準備段階としてのラポール作りをあげていたが、ラポール作りのための事前準備に焦点をあてた作業が中心となった。 具体的には、日本においては国レベルでの救済制度の構築は事件後44年目にしてはじめて「カネミ油症患者に関する施策の総合的な推進に関する法律」が成立した。しかしながらその実態は関係者がようやく一つのテーブルについた状況で、患者に対する救済環境は整えられていない。 他方、台湾油症の場合、2015年に「油症患者健康ケアサービス法」が成立した。台湾でも、関係者の協議はこれからだが、法律の中で、患者の人権保護の条文や、死亡患者への見舞金などが制定されているところは、日本と違う特性である。 また救済制度と被害者運動・支援者運動の点から確認できたことは、どちらも支援者運動が重要な立場をしめていたことである。四大公害と違い地域集積性をもたない食品公害問題にとって支援者運動は重要であった。具体的には制度政策構築のためには健康被害を抱えている患者にとっては、その運動を展開することにおいて多様な限界が存在するが、支援者運動の主体にとって、その限界は生じないため実質的な運動そのものの担い手になることができ、その力を発揮していた。 特に食品公害である油症事件は、前述したように地域集積性がなく情報が断絶されること、そのために「油症」という病像が個々人にとっては不確定性をもっていること、また油症と診断されても救済制度が不全状態であることなどから、被害が非常に潜在化する特性を持っている。そのために、支援者運動の存在が重視され、またその有効性が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
台湾でのラポール作りはほぼ実施できているのだが、その後の展開はやや送れている状況である。29年度は患者への量的調査のための事前準備の必要性が生じたために、油症患者をめぐる諸制度・政策主体の動き・支援者運動の動きなどをまとめることに時間がかかったた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、カネミ油症患者への厚労省の健康調査の過去数年にわたる結果と調査票の検証を実施する。厚労省は2017年現在、カネミ油症患者と認定された患者へ、調査票調査を実施している。その結果もHPで提示されている。それらの調査票と過去のデータを入手し、結果そのものの検証と、調査票そのものの変遷ならびに検証をも実施する。 台湾油症患者の調査は、台彎大学が実施したQOL調査がある(中国語)。またそれらを基にして分析した英語論文が存在する。それらを中心にしながら、結果の検証と、調査票の検証も同時に行っていく。 上記の二つの作業を通して、油症患者への社会学的調査を実施するための、調査票作成(調査項目の検討)、患者へのアクセス、調査方法等を検討し、実現可能性に向けて展開していく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度は日本と台湾の油症患者に関する調査票作成のための準備年度とするため、必要に応じて台湾での資料収集調査と日本での資料に関する収集調査を行う。そのために台湾を含む、現地調査のための旅費等を計上した。それ以外では、中国語での調査票や資料の翻訳依頼などにも使用を計画している。
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