2019 Fiscal Year Research-status Report
心理主義化と自己実現:生の感情労働化とグローバル人材の誕生
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16K04119
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
崎山 治男 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (20361553)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 感情労働 / 感情社会学 / グローバル化 / ICT化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の今年度の成果は、グローバル化とICT化にともなう理論的研究と実証的研究とに大別できる。 前者に関しては、主にグローバル化の主導権が欧米からアジア圏へとシフトしつつある社会状況を踏まえ、世界システム論の研究群の一部の論者としてフランクやアリギ等の研究を精査した。長期的な歴史的な視座に立つならば、グローバル化とそれを支えた技術革新は元々アジア・中華圏に端を発したものであり、その回帰現象が21世紀冒頭で起きている点を考察した。 またそれの実証的な裏付けとして、製造業の拠点のみならずコールセンター業務などの非対面型の感情労働を伴う拠点、あるいは、現行では看護・介護等の対面型の感情労働の担い手の送り出し側としてアジア・中華圏があるが、今後の経済成長や人口統計の推移、並びに研究・教育投資からみるならば、いずれは逆転現象も起きる点を考察した。 実証的な研究としては、今後想定している質的調査の基盤として、いくつかの企業セミナーや企画等におけるICT化と労働の変容についての現状把握と課題に務めた。具体的には、AIを導入したICT化によって、かなりの程度とスピードで事務部門のICTでの代替が起きていること、そして非対面型の感情労働等もチャットポットの導入により代替されつつあることを把握した。 さらに、対面型の感情労働も上記したAIとICT化によって取得された情報に支えられ、ある程度の代替が進むであろうことを考察した。これらを通してICT化・グローバル化にともなう感情労働のゆくえを総体的に把握した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績の概要に記したように、現代社会のグローバル化の実態と変容について、現実と理論の双方の面から一定の理論的基盤の蓄積と更新を順調に行うことができたものと考える。また、それにより今後の研究の方向性として本研究課題が想定していた「グローバル人材」の質的変容を追う基盤体制も順調に整えられている。しかし、これらの現象を取り巻く課題としての情報通信環境の整備と情報の発信受信、それに伴う労働と消費の変容までは必ずしも十分に追い切れていない点が課題としてのこる。この点は次年度以降さらに考察を進めたい。 また、実証面についても予定していた質的調査の足がかりとなるグローバル化・ICT化に伴う企業の労働現場の変容の一端をつかむことができ、この点は非常に順調に進むことができた。しかし、それが必ずしも日本あるいは世界の経済活動の全体の動向であるとは言い切れず、情報通信産業等、グローバル化・ICT化を支えたり行ったりせざるをえない業種に限られた事象であるという面も残っていると考える。 これらの点については、次年度以降、官庁等の組織やいわゆる製造業等の職域を広げた範囲でさらに検討を進めていきたい。また、それを通してグローバル化・ICT化にともなう労働現場の変容、とりわけ感情労働のそれの質的調査を次第に進めていきたい。 以上から、本研究課題が基本的に目指してきたグローバル化とICT化、それにともなう感情労働の変化についての研究の基礎的な基盤を整備できた点では順調に進んでいるが、一方、上述したように一定の課題も残る。これらは次年度以降にさらに精査したい。
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Strategy for Future Research Activity |
上記概要と進捗状況で記したようにグローバル化と労働の21世紀での変容の理論的基盤としてのリオリエント、すなわちアジア・中華圏への回帰という理論的研究はさらに職種や実態を広げて精査する。また、内実を探るための企業や労働場面での質的調査の続行と深化を進める。 しかし、昨今のコロナ拡大感染を踏まえるならば、グローバル化とICT化の異なる位相も課題としてのこる。現時点で必ずしも見通しを定めうるものではないが、ヒトとモノの交通・物流という面ではグローバル化の後退と、改めて国家というプレイヤーの存在の比重が高まっている面がある。ただ一方で、テレワークなどの通信技術を駆使した労働の変化、すなわち情報の交流を通したグローバル化はかえって欧米圏への回帰、もしくは国家というプレイヤーの存在を後退させる側面ももつ。 また、これらの動向が感情労働の性質を大きく変えることにもなると考える。これまでの感情労働研究の主流であった対面型のそれは、情報環境のそれに大きくシフトしていくことが見込まれる。その際に、ウエッブ上のデータのやりとりを通した感情労働のサービスの担い手・受け手にかかる心理的な負担、感覚、技法は大きく変容することが見込まれる。この点、オンラインを介した感情労働とそれにともなう感覚と技法の変化にも注目していきたい。 このように、基本的にはこれまでの研究の継続性を踏まえ、コロナ感染拡大とそれにともなう社会と労働、感情労働での感覚と技法の精査を試みたい。
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Causes of Carryover |
コロナ感染拡大を受け、所属機関より2020年2月27日付けで研究活動に関わる出張の自粛・見直し・時期変更等の要請があった。そのため、研究課題に関わって2020年3月に予定していた三つの企業セミナーへの出席、一つの企画への参加を見合わせ、2020年度に時期変更することを余儀なくされた。 この点はすでに補助事業延長申請を所属機関を通して日本学術振興会に提出し、受理・承認されている。その上で今後、2020年度内にコロナ感染拡大の様子を見据えながら、主に上記した趣旨での調査研究旅費に充てたい。
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