2017 Fiscal Year Research-status Report
モビリティとシティズンシップ――ウガンダ・アルバート湖岸地域の共生原理
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16K04126
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Research Institution | Shitennoji University |
Principal Investigator |
田原 範子 四天王寺大学, 人文社会学部, 教授 (70310711)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | モビリティ / シティズンシップ / トランスナショナリティ / 移民社会 / アフリカ大湖地域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、トランスナショナルな移民の動態、国境を越えて「つながる」ネットワークの活用を明らかにし、モビリティの基底にある社会的政治的なメカニズムを解明することである。 ①東アフリカ社会の国境地域におけるフィールドワークを実施することで、移民の受け入れ社会の漁村では、国家権力(具体的には漁業省)との関係において移動が加速・変容していることを観察した。また送り出し社会においては、「伝統」儀礼の変容に関係してクラン内での長老・青年・女性の位置の変更がみられることが明らかになった。②旧宗主国イギリスにおいて文献研究とアーカイブワークを行った。ウガンダ保護領の漁獲政策は、他の英国アフリカ植民地との関係で実施されていること、ローカルな統治機構において漁業者と地域行政担当者らのネットワークが存在したことが明らかになった。③研究の論理的基盤を確立にするために、シティズンシップにかかわる国内、国外(ウガンダ共和国のマケレレ大学、南アフリカ共和国のケープタウン大学)の研究会に参加し、コミュニティにおける儀礼をとおして表れるリチュアル・シティズンシップの概念を提唱し、多くのコメントを得た。口頭発表の成果は、研究論文として投稿し、掲載された。また、シティズンシップ概念を深化させるために、日本文化人類学会で、病者のシティズンシップについて論議するために分科会を組織し、準備している。④映像による研究成果の一般公開を視野にいれ、山形ドキュメンタリー映画祭で、人類学的映像の制作についての情報収集を行った。 上記の研究成果について、国際学会で報告し、一般社会への還元のためにホームページでの公開も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国境を越えて展開される社会現象について調査し、人びとが生きる場において構築するネットワークの現状を明らかにし、シティズンシップ概念について研究するために、平成29年度は以下の課題を企画した。①フィールドワーク、②アーカイブワーク、③シティズンシップにかかわる理論研究、④国内外の学会報告、⑤ホームページの運営である。課題遂行状況は以下のとおりで、計画通りにすすまなかったものもあるが、おおむね順調に進展していると考えられる。 (1)8月にウガンダ共和国・アルバート湖岸地域でのフィールドワークを実施した。当初、移民一世、二世、三世の聞き取り調査を予定していたが、昨年度の大統領選挙後の政治的変容のなかで聞き取り調査は困難で参与観察を中心に行った。(2)2018年3月にロンドンの国立公文書館におけるアーカイブワークを実施した。英国保護領下にある漁労政策と地方行政組織における問題を知ることができた。(3)7月の国内研究会、8月のウガンダでの研究会、11月の南アフリカ共和国での研究会をとおして、国際社会における研究動向を踏まえながらシティズンシップ概念の理論を深化させることができた。具体的には、移動のなかで変容する儀礼をとおして、育まれるネットワークをリチュアル・シティズンシップと名づけ、その概念の有用性について議論を行った。(4)国際学会で研究成果を報告し、研究論文として学術雑誌に投稿し掲載された。政治的・社会的背景と人びとの移動を連関させることで、モビリティの基底にあるメカニズムを解明しようとしている。(5)研究成果公開のために、研究協力者とともにホームページを運営し、十分とはいえないが随時更新を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
多民族「共生」を可能とする原理、多様な人びとが共に生活するためのシティズンシップ概念を探求するために、以下のような研究課題を実施する。 ①平成29年度同様、研究代表者はアルバート湖岸の移民社会・出身地域、連携研究者がウガンダとケニア国境のトロロにおいてフィールドワークを実施し、移民一世、二世、三世の聞き取り調査、および移民受け入れ側(アルバート湖はニョロ系ムグング人、トロロはパドラ人)の参与観察と聞き取り調査を行う。②平成27・28年度に実施したアーカイブ・ワークをもとにして歴史資料の整理・分析を行う。モビリティの歴史的側面、マクロな構造的歴史的文脈に焦点を当てた論文を構想し、執筆する。③モビリティとシティズンシップにかかわる理論的研究の深化のために、長崎大学を中心とするアフリカンシティズンシップの研究会と南アフリカとの二国間事業に参加する。南アフリカ・ケープタウンにおける移民受け入れの状況について、研究協力者とともに明らかにする。また、ユバスキュラ移民受け入れ先進社会(フィンランド)での調査、社会の周縁におかれてきたハンセン病元患者の聞き取り調査(日本)も継続する。 ④日本国内におけるシティズンシップ研究を、病者のシティズンシップに焦点を当てて継続する。具体的には、ハンセン病者の隔離・収容の歴史を聞き取り調査により明らかにし、思想的背景を明らかにしつつ、それを超えるシティズンシップ概念を模索する。⑤連携研究者の岩谷洋史を中心として、ホームページの運営および映像・写真資料の一般社会への公開を推進する。また国内外の学会に参加しながら、ウガンダのフィールドワークで得た知見を国内の移民受け入れ態勢と関係させるというテーマで、学術書の執筆を構想する。
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Research Products
(7 results)