2018 Fiscal Year Research-status Report
モビリティとシティズンシップ――ウガンダ・アルバート湖岸地域の共生原理
Project/Area Number |
16K04126
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Research Institution | Shitennoji University |
Principal Investigator |
田原 範子 四天王寺大学, 人文社会学部, 教授 (70310711)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | モビリティ / シティズンシップ / トランスナショナリティ / 移民社会 / アフリカ大湖地域 / 石油開発による土地問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、トランスナショナルな移民の動態、国境を越えて「つながる」ネットワークの活用を明らかにし、モビリティの基底にある社会的政治的なメカニズムを解明することである。 研究計画におけるフィールドワークにより以下4点を明らかにした。①国家の漁労政策により漁民の移動が加速し、漁労政策のローカルな適用によって岸辺を周遊する漁民が増加していること、②こうしたモビリティは、経済的・政治的合理的判断にのみ基づくのではなく、共同体や社会に「帰属する」という意識、そこで「暮らす」「働く」という感情的で偶然的な産物による部分が大きいこと、③送り出し社会において「伝統」儀礼の変容に関係してクラン内での長老・青年・女性の役割変更が観察されること、④発見された石油により土地問題が生じていることである。また英国公文書館におけるアーカイブワークによりウガンダ保護領における以下5点を解明した。①ウガンダ保護領の漁労政策は、他の英国アフリカ植民地との関係で実施されたこと、②ローカルな統治機構において漁業者と地域行政担当者らのネットワークが存在したこと、③1900年代前半にはアルバート湖では、現在に続くベルギー領コンゴとの揉め事が発生していたこと、④ウガンダ保護領の漁獲には世界市場からの需要があったこと、⑤聞き取り調査で「1960年代に村として機能し始めた」と語られた村が、すでに1900年代前半の地図に村名が記されていることである。 研究成果を日本社会の現実と架橋し、さらにシティズンシップ概念の理論化をはかるために、シティズンシップ関係の研究会に参加するとともに、移民だけではなく病者のシティズンシップについても調査を進めている。また研究成果公開のために、研究論文執筆・投稿、学会における研究報告、一般社会における講演を実施した。さらにホームページの運営をとおして、適宜、研究成果の公開に努めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国境を越えて展開される社会現象について調査し、人びとが生きる場において構築するネットワークの現状を明らかにし、シティズンシップ概念について研究するために、平成30年度は以下の課題を企画した。①フィールドワーク、②シティズンシップにかかわる理論研究、③国内学会での研究報告、④ホームページの運営である。 課題遂行状況は以下のとおりで、おおむね順調に進展していると考えられる。①8月と2月にウガンダ共和国・アルバート湖岸地域でフィールドワークを行った。②5月:シティズンシップ研究会においてシティズンシップ概念の文献調査を基盤として、アフリカンシティズンシップという概念の検討を行った。11月:南アフリカケープタウンの研究会では、ケープタウン大学の研究者との交流をとおして、シティズンシップ概念の理論と歴史的背景の融合を試みた。③6月:日本文化人類学会において、病によりシティズンシップをはく奪されたハンセン病の人びとの営みを明らかにするために分科会を組織し研究報告をした。国家権力による強制的な隔離政策のなかで、人びとは多様なモビリティを実践していたことを指摘した。④研究協力者とともにホームページを運営し、十分とはいえないが随時更新を試みている。 今年度実施できなかった課題としては、移民受け入れ先進国で実施したフィンランドの予備調査を継続することができなかった。フィンランドでは、北方民族を排斥した過去の政治政策への反省をもとに、市民社会における排除の研究が進められている。本研究課題においても、さらなる文献研究とフィールドワークを積み重ねる必要があるだろう。次年度では、こうした取り組みをとおして、多様な人びとが集う空間におけるシティズンシップの構築可能性につい取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
多民族「共生」を可能とする原理、多様な人びとが共に生活するためのシティズンシップ概念を探求するために、以下のような研究課題を実施する。 ①ウガンダの移民社会およびケニアとコンゴ民衆共和国との国境地域においてフィールドワークを実施し、移民の聞き取り調査、および移民受け入れ側の参与観察と聞き取り調査を行う。アルバート湖における石油採掘にともなう土地問題については継続して調査を実施する。②平成27・28年度に実施したアーカイブ・ワークをもとにして歴史資料の整理・分析を行う。モビリティの歴史的側面、マクロな構造的歴史的文脈に焦点を当てた論文を執筆し、学術雑誌へ投稿する。③モビリティとシティズンシップにかかわる理論的研究の深化のために、南アフリカとの二国間事業に参加する。シティズンシップとレジリエンスにかかわる理論的研究を継続しながら、南アフリカ・ケープタウンにおける移民受け入れの状況について、研究協力者とともに明らかにする。またアパルトヘイトが今日もなお影響を与えている現状をとおして、シティズンシップ概念の深化をはかる。④連携研究者とともに、ホームページの運営および映像・写真資料を編集し、一般社会への研究成果の公開を推進する。また可能であれば、以下の課題も実施する。⑤ユバスキュラにおける移民受け入れ先進社会(フィンランド)での調査、⑥社会の周縁におかれてきたハンセン病元患者の聞き取り調査(日本)の継続である。 本研究の成果を、日本における移民の受け入れの問題および病者の問題と架橋することを試みるために、国内外の学会に参加し、研究交流を進める。また今回の研究遂行で得た史資料をもとにして、シティズンシップにかかわる学術書の執筆を構想する。
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Research Products
(6 results)