2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K04138
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
井上 信宏 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (40303440)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 互助 / 社会関係資本 / 地域包括ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、長野県松本市の地域を選定し、地域社会が担いうる互助関係を明らかにし、社会資源を活用しながら生活課題を抱える高齢者等の生活を支援するしくみを育成する方法のモデル化を試みるものである。 2016年度は、松本市のJo地区の協力を得て、本研究を進めるためのネットワークの構築と共通理解を深めるための基盤づくりを進めた。 Jo地区は、人口約7,600人、高齢化率28%、要介護認定率21%であり、松本市内では高齢化率も高く、かつ要介護認定率も高い地域である。ひとり暮らし高齢者も300名を超えている。また、古い城下町の一角に位置し、15の単位町会は旧町名を残している歴史のある地区である。こうした地域特性をもとに、Jo地区への介入は、キーパーソンの地域住民の方の協力を得て、単位町会ごとの地域特性や社会資源の状況、個別課題や地域課題のヒアリングを実施した。併せて、同地区を担当する職員、保健師などからもヒアリングを実施した。 ヒアリングを通じて、当該住民へのニーズ調査(アンケート調査)を実施するのは時期尚早であることがわかったので、15町会ごとに地域課題や社会資源の状況について、各町会のキーパーソンにヒアリングを実施することにした。実施については、研究代表者が開発した地域介入ツールをもとに、同地区を担当する職員や保健師、地域住民への研修を実施し、彼らの協力を得て、当事者がヒアリングを実施するというスタイルをとった。年度内に全てのヒアリングを済ませ、その結果を「地域カルテ」として取りまとめた。 この取り組みを通じて、Jo地区の町会ごとの地域課題や社会資源が収集でき、これまで発見できなかったものが可視化されることになった。また、ヒアリングに参加したメンバーらが得たものが多く、地区担当としての取り組みの今後の変化が期待できるところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、具体的な地域を選定して、研究代表者が当事者に働きかけながら、地域住民が地区担当の行政職員や専門職の力を借りて互助関係を構築するプロセスを研究対象とするものである。 2016年度において、Jo地区の協力が得られたこと、また、地域住民や地区担当の行政職員や専門職の協力も得られて、かつ地域課題や社会資源の状況について「地域カルテ」を作るところまで進むことができている。おおむね順調に進展していると自己評価する所以である。 これと併せて、本研究では、今後、地域住民や地区担当職員らが、自らの力だけで地域課題を把握し、社会資源を整理できるようになるための研修ツールの開発に取り組んでいる。研究代表者は、改めて「ファシリテーション」の技術を学ぶ機会、「コミュニティ・オーガナイジング」の考え方と進め方を学ぶ機会に参加し、当事者の行動変容に繋がるツールの研究をはじめている。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、Jo地区への支援を今後も継続して実施する。2016年度にとりまとめた「地域カルテ」は、ヒアリングの結果を統一フォーマットにまとめた水準に留まっている。これをもとに、引き続いて、当事者の方々と協力の上で、各町会ごとの地域課題の順位づけを実施し、社会資源の精査を実施する。この作業を通じて、各町会におけるキーパーソンの掘り起こしや活用可能な新しい社会資源の開発に着手する。地域の受け入れ環境が整った段階で、住民対象の社会調査の実施について検討する。 第2に、地域住民や地区担当職員らが、自らの力だけで地域課題を把握し、社会資源を整理できるようになるための研修ツールの開発に取り掛かる。地域社会のなかに互助関係を作るには、当事者が自ら地域課題を認識し、自ら行動して課題解決を試みることができる環境整備が必要である。そうした「行動変容」を誘導するツールが何かを、理論的にも実践的にも明らかにする。 第3に、既存の社会資源(本研究では、松本市が整備した地区公民館、福祉ひろば(いずれも公設公営)、地域づくりの取り組み)のこれまでの取り組みを歴史的に整理し、互助関係の構築に向けた機能の見直し作業を実施する。 第4に、Jo地区以外の別の地区との関係づくりに着手して、次のモデル地区の選定作業を実施する。
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Causes of Carryover |
2016年度は、外部講師を招聘した研修や研究会の実施がなかったために、次年度使用分が発生することになった。これは、調査対象地区および当事者の問題意識が高く、主に研究代表者が研修を実施したり、自ら講師となって研究会を実施する対応で十分であったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度は、従来計画の予算執行に加えて、次のモデル地区の選定と合わせて、外部講師を招聘した研修や研究会の実施機会を用意したい。次年度使用額分については、2017年度の「人件費・謝金」に繰り入れて、外部講師を招聘した研究会等の謝金として使用する。
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