2018 Fiscal Year Research-status Report
若年女性のケイパビリティの形成と社会的包摂のあり方に関する研究
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16K04139
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
天野 敏昭 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (40736203)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大村 和正 立命館大学, 産業社会学部, 非常勤講師 (30571393)
熊本 理抄 近畿大学, 人権問題研究所, 准教授 (80351576)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ケイパビリティ・アプローチ / 福祉的自由 / 社会的包摂 / 若年女性 / 生活困窮 / 自律 / 就労 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
若年女性の生活困窮(経済的困窮、無業、非正規職・不安定就労、社会参入の困難など)に対する施策のあり方を、①ケイパビリティ・アプローチの理論研究、②ケイパビリティ・アプローチに関係する施策・事業の実践、③海外における若年女性の生活困難に対する施策・事業という3つの軸に基づいて研究を進めた。2018年度は、5回程度の研究会を開催し情報共有と議論を重ね、外部講師を招いて公開研究会を1回開催した。 ①では、ケイパビリティ・アプローチが学際的理論で、実践レベルでの適用可能性を高める余地が大きい点に着目し、センとヌスバウムの理論を継承しその展開と汎用化に取り組むIngrid Robeynsの先行理論研究を中心に検討した。従来の研究が、項目抽出やリスト化が主流であるのに対し、ケイパビリティ・アプローチの核心部分と選択部分をモジュール化する提起について、実際の施策・事業と対比させて適用可能性を検証する課題につなげた。 ②では、若年女性の生活困窮の問題に先行的に着目し施策・事業に取り組む、豊中市(複数関係機関)、横浜市(男女共同参画推進協会)、東京都世田谷区(区立男女共同参画センター、三軒茶屋就労支援センター)で聞き取りを行い、この問題に対する当事者の関心が高く、施策・事業の必要性が高い一方、ジェンダー規範などの影響が大きく当事者を十分に捕捉できない課題があることも明らかになった。 ③では、ソウル市の市民主体の革新・協治のもと、ジェンダー平等、就業・起業、安全の確保、家族や共同体などへの幅広い支援がみられることを確認した。また、横浜市で1988年から25年間実施された再就職準備講座「ルトラヴァイエ」と、そのモデルでフランスの社会学者の発意により1974年に始められた「Retravaille」が、現在もフランス国内で拡充実施されている点に注目し、同講座の内容と意義の検討を今後の課題につなげた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、福祉におけるケイパビリティ・アプローチの概念に依拠して、主にシングルの非正規職及び無業の女性の支援施策の実態について、先行的な取組みがみられる豊中市、横浜市、東京都世田谷区の施策・事業の経緯、内容、特徴などの比較検討を行い、また、注目すべき施策・事業の一つである、横浜市で実施された女性のための再就職準備講座「ルトラヴァイエ」とそのモデルになったフランスの「Retravaille」に着目し、長年にわたって継続されてきた施策・事業の内容と意義を明らかにし、これらの内容を包括的に分析し論稿にまとめる計画を有している。 上記の目的に向けて、当初、2018年度中に首都圏での現地調査を完了する予定にしていたが、研究代表者の健康不調により現地調査を十分に行えなかったため、期間延長申請を行って研究計画を変更し、2019年度も継続して調査を実施し、研究の総括と論稿の取りまとめにつなげることにした。 上記の経過を受け、研究全体で依拠するケイパビリティ・アプローチの概念について、その学際性を超えて複数の所説を共存させ汎用化を試みるIngrid Robeynsが提起している、ケイパビリティ・アプローチが必須のコア部分と選択可能な部分で構成される汎用的なモジュールであるとする考え方と、ケイパビリティ理論の核になる概念とケイパビリティ及び機能の達成へのプロセスの関係性に着目する2つの所説に基づき、実際に行われている施策・事業が、ケイパビリティ・アプローチの分析枠組みに則して、自らが福祉を実現できる選択可能な機能の組み合わせやその能力の開発・形成の観点からどのように位置づけられ意義づけられるのかについて検証しようとしている。 このため、理論研究に基づいて本研究での分析枠組みの検討を進めると同時に、各関係機関での聞き取り調査結果の包括的なまとめに取り組み、最終的な分析に向けた準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の前半は、関係諸機関での現地調査や関係者への聞き取りなどの調査を重ねる予定で、若年女性の生活困窮に対する具体的な施策・事業の現状及び課題の理解を深めていきたい。調査先の関係諸機関は、当初、女性支援や男女共同参画推進に関係する組織を想定していたが、生活困窮の観点から、生活困窮者自立支援事業と市町村地域就労支援事業の実施主体にも広げ、支援対象の女性の現状・課題と対応の実態などを多面的に把握する方向で進めていきたい。 また、2018年度の研究や外部講師の報告(桔川純子氏を招聘:「ソウル発ソーシャルデザインの行方-若者と女性のエンパワメントのデザイン-」のテーマで、ソウル市のコミュニティ・デザインの現状と若者・女性のエンパワメントの取組みなどご講演いただいた)の内容から得られた大きな示唆は、先行的な施策・事業がみられる豊中、横浜、東京都世田谷区、ソウル市は、市民や住民の主体的な活動が活発で、自治や行政との協治が発達している共通の特徴がみられ、こうした特徴の違いが、施策・事業の地域差に影響しているように考えられた。そして、こうした特徴は、様々な生活困窮の状況にある若年女性の自律と就労において、地域の様々な資源のネットワークがより充実した支援、また、「伴走型支援」と「集団的支援」の組み合わせといった多様な支援方策に結びつき、「ケイパビリティの形成→安心できる場での支え合いの中での相互承認→多様な生き方・働き方の選択肢の可能性[家庭内労働(非市場)と雇用労働(市場)の中間に位置する経済的実践の民主化(社会的連帯経済)]」という流れを生み出す可能性があることもうかがえた。 今後の研究では、ケイパビリティの形成と生活困窮の問題に対する施策のあり方について、市民や住民の主体的な動きや市場と非市場の中間に位置する社会的連帯経済の可能性の観点も踏まえて取りまとめていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2018年度の後半に生じた体調不良により、主に実地調査などの計画を十分に遂行できなかったため、次年度使用額が生じた。2019年度は、年度前半に国内数箇所の関係諸機関において現地調査や関係者への聞き取りなどを行う予定であるため、実地調査先への交通費、調査対象となる有識者や実務家に対する謝金、関係する資料等の購入費として、未使用額を充てる予定である。このほか、研究・調査の過程で必要となる研究会などに講師を招聘する際の講師謝金や指導助言謝金に充当するほか、最終報告書の作成費にも充当する予定である。
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Research Products
(3 results)