2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K04154
|
Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
輪倉 一広 福井県立大学, 看護福祉学部, 教授 (10342122)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ハンセン病 / キリスト教 / アングリカン / ハンナ・リデル / 熊本回春病院 |
Outline of Annual Research Achievements |
隔離政策が強化される1930年代におけるハンセン病救療事業家とその実践について宗教福祉思想史の視座から検討する本研究の初年度は、熊本回春病院の創設者で院主でもあったハンナ・リデルを取り上げた。救療実践をとらえる上での本研究の中心的な視点は、実際の援助関係がキリスト教の思想・倫理という固有な行動規範に基づいてどのように形成・構築あるいは変容されたのかという点にある。そこで、本年度の課題であるリデルの性分離処遇をめぐる救療実践においても、リデルと入院患者との援助を介した関係を把握するために具体的な状況が分かる史料を入手することがまず必要となる。 今回、その史料として目星を立てたのは、①元熊本回春病院入院者・青山滋の1931年の約半年間にわたる日記、②熊本回春病院で1922年12月から1940年12月まで計218号発行された病者への布教を目的とする機関誌『救の光』である。①はすでに長島愛生園入所者自治会で発行する『愛生』誌に掲載されたもので、本研究に着手する以前に入手し分析を進めてきたものである。日記内容の分析を通して、リデルの救療思想すなわち熊本回春病院の運営理念の基盤にもなっているアングリカンの思想が、患者たちが日本人の通念としてもつ人間観・社会観と緊張関係をもちながら、実際の援助関係に色濃く影響を及ぼしていたことが確認された。 また、②については、とくに患者たちの改宗や信仰獲得の問題に直接かかわる視点から把握できることを期待して、リデル・ライト両女史記念館、日本聖公会九州教区および各教会、日本聖公会管区事務所ならびに関係する大学図書館、可能性のある全国のハンセン病療養所等を訪問調査ないしは調査依頼したが、入手できたのはリデル没後の計28号分のみであった。したがって、当初予定した分析のためのテクスト用としては入手できずにいるが、引き続きこの資料の調査は続けることにしたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史料収集において、当初予定していた史料を入手できなかったことは残念ではあるが、すでに入手済みの公刊された患者日記を分析して論文にまとめることができたことは一定の成果があったと評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度予定したハンナ・リデルの救療思想については、引き続き史料調査を継続しつつもとりあえず終え、29年度の予定であるメアリ・コンウォール=リーの草津聖バルナバ・ミッションでの救療実践の検討に取り組む。28年度下期に草津聖バルナバ教会と栗生楽泉園を訪ね、事前調査を兼ねて協力を申し入れたので、できるだけ29年度の早いうちに現地での本格的な史料調査を進めていくつもりである。ただ、既往のコンウォール=リー研究を超える成果につながるような史料―それは既存の史料であっても従来の研究とは分析の視点が異なるために有効ではある―がどれだけ入手できるかは未知と言うしかない。
|
Causes of Carryover |
図書館からの借用等により、予定していた図書購入費の支出を抑えることができたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
史料調査をより広く行うための費用に充てたい。
|