2017 Fiscal Year Research-status Report
東日本大震災後の遠隔地避難者への生活支援の構造に関する研究
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16K04178
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Research Institution | Urawa University |
Principal Investigator |
大島 隆代 浦和大学, 社会福祉学部, 講師 (70523132)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 広域避難者 / 原発避難 / 地域生活支援 / 当事者組織 / 霊性による理解 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究事業初年の平成28年度は、当事者の生活困難の理解や支援構造の解題を行い、その知見をもとにして二年目である平成29年度には、実際に遠隔地避難を継続しているかたがたへの調査的接近を行う予定であった。しかし、調査設計と調査対象者へのコーディネートに時間を要したため、具体的な調査事業の実施には至らなかった。 そこで、並行して継続していた文献研究から、大きな災害により被災したかたがたへの専門職による支援のみではなく、同じ経験をした当事者による支え合いや、精神的な癒しに影響を及ぼしていると考えられる霊性についての考察を行った。 社会福祉実践であるソーシャルワークの領域では、セルフヘルプグループに代表されるような自助的な援助関係によって、支援対象者やクライエントが自分らしさを再獲得していくことや、生活を立て直していくことへの効果が実証されている。しかし、被災による広域避難をしたかたがたは、地域など物理的コミュニティの崩壊や故郷といった心のよりどころの喪失を経験しているため、自助的な援助関係というよりは、同じ経験を背景とした緩やかな支え合いといった構造を有していることが示唆された。 また、東日本大震災の津波被害などにより身近な人を亡くしたかたがたの霊的体験からの癒しの事例からは、遠隔地避難を強いられたかたがたにも、目に見えない霊性的なエピソードを共有したり、自身や同じ経験をした人同士の物語的な自己表現ができる場があることで、日々の生活を支えることに効果をもたらしているということも考えられた。これはソーシャルワークにおけるナラティブアプローチにより対象者理解ともいえるが、ソーシャルワークという方法論で説明ができる対象者理解というよりは、従前に同じ地域で生まれ育ったという生活史的な理解や文化人類学的な枠組みでの対象者(被災者、当事者)理解も必要であるということがいえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究事業開始時に計画していた、実証的な調査研究をするにあたっての調査対象の選定に時間を要し、また、調査対象となる人たちへの接近に配慮を要したため。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究実践から得られた知見から、原発事故による避難者を理解するにあたって、「ディアスポラ」や「難民・移民」という概念を用いて、生活の困難や精神的な様相の理解ができるのではないかということが示唆されていた。そこで、社会学、文化人類学などの領域の文献も参考にしつつ、被災などといった経験から、どのように人びとが立ち上がってきたのかを探ってきた。 今後、実証研究としての当事者への調査接近が難しい状況が続くようであれば、引き続いて、霊性などといったものが遠隔地避難者の生活へどのような影響をもたらし、また、生活を続けていくことや今後の生活の支えになっていくのかということを探ってみたい。 また、本研究事業は、社会福祉学やその実践への寄与を目的としたものでもあるため、生活支援に関わる社会福祉の専門職が、被災による広域や遠隔地に避難したかたがたに対して、どのような意識や視点を持って関わるべきなのかを考えていきたい。
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Causes of Carryover |
研究事業開始時に計画していた調査の実施に至らず、調査にかかる謝金や旅費の支給がなかったため。
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