2016 Fiscal Year Research-status Report
自助集団のスピリチュアリティと土着の知の融合:通俗心理学の言説に対抗して
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16K04184
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
岡 知史 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (50194329)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マレーシア / スウェーデン / 死別 / 土着の知 / ソーシャルワークのグローバル定義 / キリスト教 / イスラム教 / 世俗化 |
Outline of Annual Research Achievements |
「自助集団のスピリチュアリティと土着の知の融合」を、ソーシャルワークの観点から推進する根拠として、ソーシャルワークのグローバル定義をとりあげ、死者とのつながりを保持する「土着の知」と自死遺族の自助集団のスピリチュアリティの融合を事例研究として追究した。その結果は6月にシンガポールで開かれた8th International Conference on Social Work in Health and Mental Healthで発表した。11月には死別支援をソーシャルワークの観点から研究するスウェーデンおよびマレーシアの研究者と議論する機会をもち、翌年1月にハワイで開かれたThe IAFOR International Conference on the Social Sciencesで共同で研究発表した。そこでわかったことは、スウェーデンでは人々の宗教への関心は低く、社会の世俗化が非常に進んでいること。一方、マレーシアでは(イスラムの教義とは合致しないように思える)追善供養に似たものがあることである。死者との関係の研究は、日本では、キリスト教信仰がまだ残るアメリカと、仏教国である日本との比較が用いられることが多く、私自身の考えもそれに大きく影響されてきた。そしてキリスト教が一神教として、死者と生者のつながりには否定的であるとし、イスラム教もやはり一神教として同等の性格をもつと予想していた。しかしながら、アメリカと違ってスウェーデンは非常に世俗化が進んでおり、そのなかで「土着の知」とは何を意味するのかという問いに答えるのは難しい。またイスラム教が深く根付いているマレーシアのマレー人の社会では、伝統的な考え方から、日本の追善供養に似たものがあった。欧米をキリスト教的文化をもつ社会とし、マレーシアのマレー社会をイスラム社会の典型と考えたのは、大きな間違いであることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内での断酒会、自死遺族へのインタビューを中心に研究を進めていく予定であったが、思いがけず海外の研究者と共同研究をすることになり、その研究は「自助集団のスピリチュアリティと土着の知の融合」という本研究の一貫して遂行できると判断した。2017年1月の学会発表に向けて、先行研究のレビューを中心に行ってきたので、当初の計画にあった国内のインタビュー調査はあまり進まなかった。しかしながら、全く異なる文化、文明に拠点をもつ複数の海外研究者と議論する機会をもつことができ、「土着の知」という概念の難しさを改めて考えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
自死遺族と断酒会、断酒道場関係者へのインタビューを行う予定である。また非欧米・発展途上国での「土着の知」については、多くの文献があるが、欧米の極めて世俗化した社会での「土着の知」とはどのようなものなのか、改めて先行研究のレビューを進めていきたいと思う。マレーシアの研究者とのつながりも維持されているので、イスラム社会(一神教が支配する社会)のなかでの追善供養は、日本の仏教の追善供養との共通点をさぐることで「土着の知」とスピリチュアリティの関係を探ることができるのではないかと考えている。
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Causes of Carryover |
インタビュー対象者が関係する団体(自助グループ)との関係の調整が難しかったため、予定どおりインタビューが進まなかったため、交通費、インタビューの反訳費用等が次年度使用額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
大学の夏期休暇を最大限に用いて、インタビューを行う予定である。
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