2018 Fiscal Year Research-status Report
自助集団のスピリチュアリティと土着の知の融合:通俗心理学の言説に対抗して
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16K04184
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
岡 知史 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (50194329)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 自助グループ / 土着の知 / 経験的知識 / 素人の知識 / 専門的知識 / 通俗心理学 / 断酒会 / 自死遺族 |
Outline of Annual Research Achievements |
自助グループの知識の基盤は、当事者の「経験的知識」であるというのが、通説である。その「経験的知識」は、専門職による「専門的知識」と対比して論じられてきた。しかし、その経験的知識の蓄積は、当事者がすでにもっている知識の上に積み上げられていくものである。本研究は自助グループの活動の基盤には3つの知識(「経験的知識(experiential knowledge)」「素人の知識(lay knowledge)」「専門的知識(professional knowledge)」)があると考え、その異なる知識の関係性ついて自死遺族とアルコール依存症の自助グループの事例を用いながら考察した。その結果、次のような3つの仮説が生まれた。①3つの知識は互いに影響を与え合うが、「専門的知識」は「経験的知識」と「素人の知識」に大きな影響を与えるが、その逆の影響は小さい。②「素人の知識」は「経験的知識」に大きな影響を与えるが、その逆の影響は小さい。③3つの知は、互いに影響を与え合っているが、その組み合わせにより3つの領域が生じる。(1)「通俗心理学」:「専門的知識」と「素人の知識」の組み合わせによって生じる。自死遺族の自助グループ周辺には「通俗心理学」を基礎とした「専門家」が活躍し、「専門的知識」と「素人の知識」の境界は弱い。(2)「土着の知」:「素人の知識」を基盤にしつつも当事者の体験をもとにして知識を生み出す。アルコール依存症なら「修行」、自死遺族なら「供養」といった「土着」の概念が知識を構成する核となる。禅や仏教の知識が、その基盤にある。(3)「専門職と自助グループの連携による知」:たとえば「断酒しか、回復の道はない」という考え方がある。これは節酒療法を行う専門職には受け入れられない知識であり、自助グループとの関係を重視する専門職が採用している知である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
下記に示す事情が重なり研究の進展が遅れた。 (1)研究代表者の心身の不調。 (2)研究代表者の大学における役職にかかわる業務の増加。 今後は、心身の健康に留意し、大学における役職にかかわる業務の効率化をはかり、研究の進展に努力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)すでにインタビューや資料の収集はすすんでいるので、これを反訳業者に委託し、分析できるようにしたい。 (2)これまでの研究で得られた仮説を裏付けるデータを、インタビュー等によってさらに集めたい。
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Causes of Carryover |
以下の理由による。(1)インタビューして得たデータの反訳、一部の英訳が終了していない。(2)調査のため旅費を用意していたが、調査対象者と日程が合わなかった等の理由から延期せざるを得なかったため。 今年度は、データの反訳、一部の英訳を進め、夏期休暇等に調査を行い、旅費として上記の助成金を使用する予定である。
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