2016 Fiscal Year Research-status Report
意思決定支援を基盤とする福祉契約の研究~地域における新たな権利擁護システムの構築
Project/Area Number |
16K04202
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
飯村 史恵 立教大学, コミュニティ福祉学部, 准教授 (10516454)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 意思決定支援 / 福祉契約 / 主体化 / エンパワメント / 権利擁護 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である2016年度は、3名の法学並びに知的障害者福祉の専門家を研究協力者に迎えて5回の研究会を開催した。研究会の中で2回は、知的障害者支援現場に従事する職員のヒアリングを行い、現行のサービス利用手続きの矛盾と潜在化しやすい「契約」制度問題の実態を把握することができた。また国内調査として1.障害者就労支援研究・障害者自立生活実践当事者ヒアリング・高知、2.聴覚障害・精神障害当事者ヒアリング・東京、3.日常生活自立支援事業と資源開発ヒアリング・福岡を行い、国内における多彩な活動と「契約」のメリットが見い出せない現状が浮き彫りになった。 さらに、海外調査としては、1.韓国における知的しょうがい者家族・障害者関係施設職員による成年後見制度の期待に関するヒアリング、2.アメリカカリフォルニア州における知的障害者サービス利用システムに関わる行政・専門職(ソーシャルワーカー)・当事者・法律家等へのヒアリングを通じて、諸外国における「契約」のあり方と利用者中心計画の重要性を改めて理解することができた。 その結果、今年度の研究成果として、以下の暫定的結論を得ることができたと言える。 1.日本の福祉サービスへの「契約」制度導入は、少なくとも本人の主体性発揮という観点からは、成功しているとは言い難い2.国連障害者権利条約における代行決定から意思決定支援へのパラダイムシフトについて、日本における理解には相当のバラつきがある3.成年後見制度については、福祉専門職を含む関係者からの大きな期待があり、制度の持つ限界が十分認識されていない。 次年度以降、これらの暫定的結論をさらに実証的に検証することを進め、課題を解決し、多様な観点からの批判に耐え得る合理的かつ現実的な対案を提示するため、研究の深化を図る必要性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画において初年度に予定していた定常的な研究会及び国内・海外調査については、一部に対象、内容等若干の変更を加え、修正して実施したものもあったが、概ね順調に実施することができた。 とりわけ米国における海外調査については、実態に詳しい関係者との事前レクチャーを重ね、さらに、米国の社会保障法や憲法に詳しい法学研究者と同行することができた。そのため、海外比較研究において重要なポイントとなる制度の基盤を成す理念やコンセプトの基本的理解が得られたことは、極めて貴重な成果であると言える。 一方で、得られた知見の統合的結合や現場における現状についての詳細な分析は、未だ不十分な部分も散見された。また、研究代表者のマネジメントが不十分な点もあり、研究成果のアウトプットについては、やや低調であることが否めない状況となった。 次年度においては、これらの反省点を踏まえて、より効果的な研究成果発表ができることに配慮しつつ、研究を推進していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究中間年に該当する2017年度においては、昨年度得られた事項の総括的整理を基に、実証的な研究とするため、国内並びに海外におけるより精緻な研究を重ねる必要があると認識している。 そのために、定常の研究会においては、昨年度から引き続き3名の研究協力者の出席を得て、相互の研究成果を共有し合う議論を活性化する予定である。特に1.現行制度の「契約」における具体的な問題点、2.現行制度の不備等を補うサブシステム或いはこれらを改善する新たなしくみのモデル化、3.判断能力の不十分な人々を法律行為の主体とするべく意思決定支援の具体的なあり方については、2017年度末までには、一定の成果を示すことができるよう研究に取り組んでいく。 また適宜、法学/行政関係の専門家等を助言者等に迎えて議論を深め、学際研究としての成果を挙げられる工夫を行うこととする。 さらに、調査に関しては、先行研究及び既存の調査統計等を再度検討し、新たな制度が矢継ぎ早に打ち出されている福祉現場の流動的な状況を合理的に把握できるよう事前調査を行いつつ、前述のモデル化等について、実践家からの意見集約ができる調査を並行して実施し、実態と乖離しない研究を試みていく予定である。
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Causes of Carryover |
概ね使用計画通りであったが、(1)常設の研究会において新たな研究協力者の出席を求めたこと、(2)海外調査に関しては、比較研究対象として韓国及び米国に訪問することとし、そのため米国における憲法・障害児教育法等に詳しい法学研究者の協力を得ることとしたこと、(3)主として次年度に予定していた国内調査についても、可能な限り実施することとしたため、当初計画より、人件費・謝金等が膨らむ結果となった。このため、予算計画を適宜修正しつつ執行した結果、年度末にはおよそ40,000円の繰越金を残す結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の研究成果を精査した上で、日本の実態に応じた現実的な改善方策を考えるための事例検討を深め、主として国内におけるヒアリング調査等を中心に、継続して国内調査を実施することとしたい。 また同時に、意思決定支援に関する先進的な試みを進めている英国或いは豪州への海外調査についても検討し、研究協力者の研究成果等を踏まえつつ、旅費並びに謝金等の合理的執行に努めていきたい。
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