2017 Fiscal Year Research-status Report
意思決定支援を基盤とする福祉契約の研究~地域における新たな権利擁護システムの構築
Project/Area Number |
16K04202
|
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
飯村 史恵 立教大学, コミュニティ福祉学部, 准教授 (10516454)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 福祉契約 / 当事者主体 / 意思決定支援 / 成年後見制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会福祉基礎構造改革以降主流となった福祉サービスの「契約」を、利用者実態並びに実務上の観点から問い直し、他国の状況と比較研究しながら、あるべき姿を明確化することに意義がある。 研究2年目に該当する2017年度は、3回の研究会と並行して、知的障害者の親の立場に対するヒアリング調査並びにオーストラリア(NSW州・シドニー)における知的障害者・精神障害者・高齢者支援等を行っている研究者や従事者を中心としたヒアリング調査を実施した。結果的には、昨年度ほど当事者並びに関係者へのヒアリングに回数や時間をかけられなかったのが実態ではあったが、特に当初の計画段階では、詳細内容に未確定な部分も多くみられた豪州研究については「意思決定支援」を実践し、普及するために行われている研修プロジェクトに従事した研究者に対するヒアリングや、現地で活躍する日本人ソーシャルワーカー及び日系コミュニティに対するケアを展開する経営者等のヒアリングなども盛り込むことができ、研究全体の進度からすれば、ほぼ当初想定した予定通りの進捗と考えられる。 研究会においては、社会福祉実践に従事する専門職からのヒアリング等も実施してきたところであるが、福祉専門職の「契約」に対する理解が、想定以上に十分ではないことが明らかになった。最終年に向けて、その原因をさらに追究するとともに、本来の利用者特性や福祉サービスの独自性と絡めて、如何なる方策が必要なのかという新たな課題が明確になった。、 また、これまで研究成果のアウトプットが不十分であったことから、今年度は研究代表者を中心として、学会発表や論文発表に努めるように心掛けた。しかしながらこの点に関しては、未だ十分とは言い難く、最終年も引き続き研究成果を広く発表し、社会に還元できるよう努力を続けたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度からの2か年間において、判断能力の不十分な人々の意思を代理・代行して決定する成年後見制度への認識及びこれを代替する意思決定支援のあり方に関して、当事者本人、家族、行政関係者、支援者である社会福祉専門職等の幅広い角度から、ヒアリング調査を重ねてきた。 また、日本国内のみならず、韓国、米国(カリフォルニア州)、オーストラリア(NSW州)においても、比較研究の立場から、それぞれの制度における問題点や課題を関係者から抽出することに挑戦し、一定の成果を得てきたと思われる。 これらを総合して得られた中間的な到達点としては、①判断能力の不十分な人々の真正の意思を見極めることは必ずしも容易ではないこと、②各国において、多様なチャレンジと変化が絶え間なくなされていること、③一方日本においては、「契約」の理解が不十分であり、成年後見制度への過剰な期待に対抗しうる方策は、殆ど開発されていないこと等が挙げられる。 これら到達点で明らかにされた課題を、どのように解決していくかについて、最終年において可能な限り現実的な解決策を講じるために、さらなる調査と研究会等における議論を通じて、まとめ上げる予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、本研究課題の最終年に該当するため、研究成果を一定の報告書としてまとめあげ、幅広く社会に還元することに努めたい。とりわけ、判断能力が不十分な人々を支援している現場の人々の目に留まるような普及方策-例えばダイジェスト版の策定や、研究内容の概要を雑誌等に掲載するなど-を考慮し、実践に努めていきたい。 また、本研究の一つの着地点としてきた現行の契約制度に代わる新たな実践モデル案について、研究会で協議を行い、試案としてでも形にして示すことを考えていきたい。そのために、行政や地方自治に関する幅広い知見を有する研究者として、大矢野修氏(元龍谷大学教授・現佐原アカデミア理事長)を研究協力者に加え、研究会での議論や報告書の執筆構成における視角を広げていくことを予定している。 研究の推進体制については、先述した通り、研究会のメンバーを充実したものとするほかに、社会福祉のみならず、法学研究者等からのヒアリング調査なども加え、福祉サービスの利用手続きが、現行の「契約制度」に馴染むのか否か、そうでないとすれば、具体的にどのような理論に基づき、如何なる方策をもって改善すべきかという提案を、具体的に提示する成果を明示したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
2017年度の予算執行率は、必ずしも十分ではなかったと見受けられる。これについては、本学の事務処理上の規定から、年度末に行った海外調査の経費処理が、翌年度分に繰り延べられたことによることも、一定の影響を及ぼしている。 また、実施を予定していたヒアリング調査が、相手方の都合等により、実施できなくなったことも複数回重なり、これらが執行率の低迷に影響を受けたことも否めない事実であると言える。 なお、2018年度の予算については、前年度までに計画をしつつも相手方の予定等により見送っていた当事者、社会福祉協議会、行政機関並びに福祉・法学専門職等に対するヒアリング調査を適宜実施しつつ、併せて報告書執筆のための原稿料などにつき、計画的に予算執行するように心がけたい。
|