2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K04204
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
山本 真実 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 准教授 (20337695)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 社会的責任 / 公的責任 / 民間事業者 / 保育ニーズ / 子どもの権利 / 保育事業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「社会的責任」という用語の語源について整理し、保育事業にとっての「責任」について、児童福祉法施行以降、どのように解釈され、進められてきたのかを踏まえて、1990年代後半以降、急激に取り組まれた「計画化」の流れの中における保育事業の位置づけを整理し、企業経営の領域で基本となっている「社会的責任」に着目した。 1995年のいわゆる地方版エンゼルプラン(児童育成計画)の策定以降、実態調査に基づく保育ニーズの算出という手法での計画策定が、20年後の現在の保育事業の現状に大きな影響を与えている。ニーズに対応した保育事業提供のためには、「保育の公的責任」として地方自治体が果たしてきた保育を株式会社等の民間事業者による保育事業参入を認めていく方向に向けることとなった。同時に保育の実質的利用者である子ども自身を計画の主体として位置づけたことで、市場原理に基づく保育の質的低下を回避し、自治体の公的責任の存在を担保しようとする中途半端な構造を生み出すことになった。2000年以降、まずは公設民営という手法によって民間事業者を活用できる仕組みが始まったが、待機児童への対応すなわち、保育ニーズへの対応が進まない状況に変化はなく、深刻化した。2015年からは新しく「子ども・子育て支援新制度」の下で、以前よりも多くの民間企業が保育事業の担い手となることを推進する状況になっている。公的責任性が薄れた仕組みとなっている現在、真の利用者である子どもの権利を保障する概念としての「社会的責任」は大きな意味を持つ。2015年度、2016年度において新制度のもとで新設された東京都の保育所を対象に調査を行った結果、認可の基準はクリアしているものの、子ども側や保育士の立場から見た場合には、必ずしも安全が確保されているとはいえないものや子どもの育ちの過程においては疑問に思えるような保育所が増えていたことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東京都の保育所について調査できたことと、1990年代後半以降の少子化対策の中での保育事業の展開について整理が出来たことから、やや遅れ気味ではあるがおおむね順調に推移していると判断した。 本年度の計画としていた社会的責任に関する語源や企業経営領域での使い方、意識等についてのまとめをさらに深め、イギリスにおける保育に係る政策の発展過程の整理についても、引き続き今年度も取り組んでいく。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目の平成29年度は、東京都内の保育サービス提供主体を中心に実態調査を行う。具体的には、平成28年度の全体調査によって抽出された子どもの権利を侵害する可能性が高いと思われる保育施設の要件についての研究を深めることと、都内自治体で保育施設を運営している民間事業者及び当該自治体の意識・考えについて実態調査を行う。東京都三鷹市とは児童育成計画策定当時から20年間ほぼ継続して、子ども家庭福祉行政に関わっており、すでに研究協力についての承諾も得ていることから、三鷹市をフィールドに調査を進めることとする。そのほか、全体調査の中では、中央区や新宿区、渋谷区等の都心部では、オフィスビルや工場建物の用途変更によって保育施設とする例が多く、現在の認可基準ではカバーできないことが認識された。このような保育事業についても「社会的責任」意識での検討が必要な保育の状況を作りだしている懸念があるため、事例の収集を行う。以上、研究倫理指針に則り、保育事業を行う民間事業者に対して提供者側が考える「社会的責任」に関しての検討を深めることとする。
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Research Products
(1 results)