2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K04204
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
山本 真実 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 准教授 (20337695)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 保育事業 / 規制緩和 / 社会的責任 / 認可外保育施設 / 企業主導型保育事業 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度明らかになった東京都内の認可保育所の実態を踏まえ、トイレの数、採光、避難経路等などの項目において、認可基準は満たしているものの、必ずしも子どもの育ちを保障しているとは言い難い保育施設についての詳細について引き続いて明らかにした。待機児童対策が政策として優先されるあまり、オフィスビルの一室や高層階の保育室の設置が容易に認められ、死亡事故の発生や災害時の対応が懸念される環境が多くなっている。また、園庭を持たない認可保育所が増えれば増えるほど、保護者は思い切り外遊びが出来る園庭がある保育所を希望していたり、調理を外注・委託で行うことにより調理員・栄養士がいない保育所が増える中で、保護者はアレルギー対策や食育に力を入れる保育所を希望しているということがヒアリングや調査によって明らかになった。待機児童対策として、多くの保育施設が開設されているにもかかわらず、待機児童が一向に減らない一因は、数多くの規制緩和によって「必ずしも子どもの育ちに資する適切な環境でない」保育施設を社会的に容認しているためであり、社会資源としての人材育成を行う保育事業が「社会的責任」を踏まえずに実施されていることが問題であるとの指摘を行った。 その考察の手がかりとして、認可外保育施設の一つであるが認可保育所に準ずるとされている東京都認証保育所と子ども子育て支援制度発足以降、開設が進められている企業主導型保育事業について取り上げた。これらが、認可保育所の規制緩和の流れの中で議論されずに取り残されてきたことにより、認可基準自体の形骸化をもたらしている現状について指摘した。 このような保育事業の現状は、社会全体が就学前児童の保育・教育に対しての社会的責任意識が欠落していることによるものと推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、東京都に焦点を当てて、東京都認証保育所を含む認可外保育施設の実態について、制度的変遷や子ども・子育て会議での認識等を踏まえながら分析を行うことが出来た。多くの保護者は認可保育所への入所を希望しているが、待機児童の多さから入所が出来ず、仕方なく認可外保育施設を利用し、入所審査時の加点を狙う等の行為を公然と行っており、入所基準の審査時の点数配分も自治体の裁量で決定されている現実においては、もはや認可外保育施設の存在を無視して子ども・子育て支援計画を市町村自治体が策定しているという現状の問題を指摘することが出来た。また、保護者が希望する保育と実際に選択される保育施設の間のミスマッチの存在について、保護者ヒアリングと事業者からの聞き取りを行うことなどで明らかにすることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度にあたる平成30年度は、これまでに明らかになった現在のわが国の保育・教育政策が「社会的責任」を意識せずに、市場経済(マーケット)の活性化を狙った民間事業者の参入やそれを容易にするための規制緩和が、子どもの育ちの環境として適しておらず、これは児童福祉法第3条に記載されている「子どもの最善の利益」に配慮したものではないことを踏まえ、今後の保育・教育政策の中で必ずしも踏まえるべき「最善の利益」とは何であるのかを「社会的責任」を意識した保育事業の展開のために明らかにする。 そのために、計画時に比較検討の参考として挙げたイギリスの児童福祉政策のあゆみから考察すること、そしてそのあゆみから導き出された「子どもの最善の利益」を守るために保育事業において踏まえるべき項目や事項について、現地の保育関係者や学識者の見解などから検討を行うこととする。 そして、最終年度として今後の保育事業が社会的責任を踏まえた展開をしていくために行うべきことや整備すべき法的環境、公的審査基準の創設等の具体的な提案を行っていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度は保育事業者へのヒアリングに謝金が発生しなかったことと、自治体別に行う保育所でのタイムスタディを実施する準備が整わず、その際に雇用予定のアルバイト人件費への支出がなかったことによって、次年度への繰越金が発生している。 平成30年度は、昨年度実施予定だった保育所での保育士労働の実態を調査するタイムスタディを複数の保育所で行うことになっており(依頼済、現在2か所から回答あり)、その際のアルバイトへの賃金として消化できる見通しである。さらに、当初から計画されているイギリスでの現地調査を行ない、旅費を含むその他経費の支出が見込まれている。
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