2016 Fiscal Year Research-status Report
障害者権利条約に照らした意思決定及び社会的包摂を通じた福祉国家レジームの検討
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16K04205
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Research Institution | Den-en Chofu University |
Principal Investigator |
引馬 知子 田園調布学園大学, 人間福祉学部, 教授 (00267311)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 福祉国家 / ワークライフバランス / 意思決定支援 / 障害者権利条約 / 生活構造論 / 社会的包摂(ソーシャルインクルージョン) / 共生社会 / 障害者の自律と自立 |
Outline of Annual Research Achievements |
「障害者権利条約に照らした意思決定及び社会的包摂を通じた福祉国家レジームの検討」について、文献調査をもとに、初年度として研究の肝要な次の点について研究を進展させた。第一は、福祉国家レジームの検討軸となる理論として、ワークライフバランス論と生活構造論を並行して用いることを明確化したことである。 これは、研究対象諸国において、近代以降、生活行動の主体が個人におかれ、生活資源の確保と消費が労働に基づき行われるという社会規範が形成をみていること、さらに、これらの論を用いて、生活費や生活時間の諸調査などの分析が可能となり、「生活」と「就労」をめぐる社会経済的な課題に具体的に切り込んでいけることによる。一方で、生活構造論は日本独自の理論である。このため、国際比較を行う際に、生活構造論からの国際的な貢献の発見と共に、欧州や日本で同様に実施されているワークライフバランス論及びその政策に焦点をあて、双方の論を有効に用いる。 第2点として、生活構造論においては従来、障害のある人は依存的立場にあるとして、これらの人々をその構造化の中に位置付けてこなかったことがある。同様に、生活と就労のバランスを検討する近年のワークライフバランス政策も、障害当事者を対象とする視点を殆ど有していない。本研究の関心事が、障害のある人の意思決定に基づく生活と就労を通じた社会参加および、これに関わる福祉国家レジームの検討であることから、両論を用いた現実的な検討により、障害のある人を包摂する政策課題や対応を具体的に提起でき得る。 国連の障害者権利条約(2006年採択)が規定する原則や新たな諸手段に照らし、生活構造論や近年のワークライフバランス論を用いて、既存の関連する調査等を分析しつつ本研究を進めることは、社会的意義のある結果を導くものとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究テーマにおける福祉国家レジームの比較検討を可能とするために、以下のことを明らかにした。これは当初の予定のワークパッケージ1をほぼ予定通り遂行するものである。 本年度は最も有効な研究軸を明らかにすることに集中するため、文献調査とその検討に力を入れた。また国内外の研究協力者と連携し、研究の枠組みや検討の視点の共有および修正を継続的に行った。これらに基づき、次年度には、EU及びEU各国や日本の現状把握や比較を行うための訪問調査がより精緻に実施できることとなった。 本年度の具体的な進捗内容は、①障害のある人を社会的に包摂する視点からの、生活と就労に関わる文献の収集と検討、②研究の視座となる理論の検討(EUおよびEU諸国との国際比較が可能となるよう、研究協力者との意見交換の実施)、③障害のある人々の雇用・就労や社会保護に関わる現況、日本とEUの既存の調査やデータの収集・比較、指標の検討、④以上に基づく、比較検討の視点や項目の具体的な検討、⑤EUおよび調査対象となるEU加盟国の絞り込み、である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に基づき、障害のある人の生活実態把握、特に生活構造論が対象とした生活時間や生活費等に焦点を当てた先行研究の文献調査(既存の社会調査結果を含む)を行う。さらにその結果を、一般就労および福祉的就労における就業や就労条件との交錯において検討する。これらの結果を、障害に関わる生活および就労の支援諸施策の現況に照らし合わせ、障害のある人の労働参加を可能とするワークライフバランス政策の課題を分析する。これを、日本やEU加盟国の福祉レジームとのかかわりのなかで検討していく。 加えて、EUや国連等による基準や政策による役割を確認し、障害のある人が主体的な意思決定(支援を受けた意思決定を含む)のもとに生活や就労を通じて社会に参加していくことを可能とする諸要素を、複層的なソーシャルガバナンスの下で導くこととする。複層的なガバナンスを研究の視野に入れることは、グローバル化のもとで、人々の生活や就労に関わる現況が、国際、国家、地域といったさまざまなレベルの政策や現状の影響をますます受けていることによる。 次年度は、特にEUおよびEU諸国における実際の把握に力点を置き、国外の研究協力者や関係者との共働のもとに、本年度の研究結果を受けた調査及び文献研究を進めることとする。
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Causes of Carryover |
本年度は、文献調査とこれを基にした研究の視座について検討を進め、その結果を通信技術などを用いて国内外の研究者と共有して、その精査を進めた。その過程で、EU諸国における訪問調査をより具体的に行うために、実施時期を次年度とすることにした。このことによって、研究資金をより有効に活用できると考えたためである。 今後は、本年度をかけて明確になった調査対象や項目を用いて、研究目的と当初計画に沿った訪問及び文献調査を行い、それらの調査結果の分析していく。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、研究資金の使用の多くを文献や資料の収集と検討、および、その研究者間の共有に用いた。次年度は、研究計画のワークパッケージ1にある研究対象地域・国々の訪問調査を行うとともに、文献の検討を継続し、双方をつなぐ分析を、当初の計画に沿って行っていく予定である。さらに次年度は、研究計画にあるワークパッケージ2の内容を実行していくこととする。
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