2016 Fiscal Year Research-status Report
子育て家庭支援における『地域支援』実践モデルの構築に関する研究
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16K04225
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
橋本 真紀 関西学院大学, 教育学部, 教授 (50368495)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
倉石 哲也 武庫川女子大学, 文学部, 教授 (20234528)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 子育て家庭支援 / 地域支援 / 社会的包摂 / 相互適応過程 / 価値形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、国が進める子育て家庭支援施策における「地域支援」の実践モデルを構築することにある。 2016年度は、子育て家庭と地域資源の融合を支持するような援助の構成要素(理念、原理・原則、方法と機能)を析出することを目的として、事例検討会を5回実施し、国内の子育て家庭支援における「地域支援」の先駆的実践の聴取と分析対象事例の選定を行った。具体的には、3名の実践者から、単なる機関連携やアウトリーチの実現ではなく、地域の資源(文化、慣習を含む)と連動しながら、子育て家庭をとりまく地域が包摂的な方向に変容することを実現しようとする取り組みについて2事例ずつ聴取した。援助のきっかけから実践者が「地域が包摂的に変化した」と感じた段階までの過程を尋ね、その過程における援助者の働き、そこでの子育て家庭、地域住民等の反応を詳細に聴き取った。「地域の包摂的な変化」に関する状態に関しては、対局的状態として「住民による保育所建設反対運動」を提示したうえで、事例報告の際にその実践者がその事例において「地域の包摂的な変化」が見られたと解釈した理由を尋ねた。また、国内外における「社会的包摂」の定義や概念について事例検討会構成員で確認した。 結果、聴取された6事例の中で、事例検討会において「地域の包摂的な変化」が認められると判断された3事例を選定した。選定された事例は、単なるサービス、機関、近隣の人々と子育て家庭の結節点や接触が増加した事例ではなく、その家庭の存在承認とその家庭なりの力の発揮に対する許容と期待という共通の意識が、家庭を取り巻く地域資源において醸成された事例であった。援助者の働きとしては、相互適応過程における関係の違和や対立から柔和への変化を誘発する仕掛け、状況変化への気づき、変化の支持などが報告され、社会的包摂における援助者の働きの一つとして、そのような価値形成が重要となると考察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年度は、国内外の基本文献の収集と整理、先駆的実践事例検討会を、予定どおり実施し一定の成果を得た。一方で、先駆的実践のヒアリング調査に関しては、2016年度から開始する予定であったが、2017年度以降に実施することとなった。 国内外の基本文献の収集・整理に関しては、2016年度は、社会的包摂の概念を研究班で共有するための資料、また海外の子育て家庭支援の取り組みにかかわる先行研究を中心に収集し検討した。これにより、事例検討会に参加する研究者間で社会的包摂、社会的排除の概念に関する一定の共通理解が担保された。先駆的実践事例検討会の開催は、研究計画書に示すとおり、事例検討会を年5回程度開催し、「地域支援」実践モデルの構築を目的として、「地域支援」の援助機能に関わる情報を集積した。事例検討会の参加者は、拠点事業と利用者支援事業双方を対象とし、「地域支援」に先駆的に取り組む実践者の協力を得た。先駆的実践のヒアリング調査は、国内外の先駆的実践、他領域の実践を対象とし、①「地域支援」の構造的な分析を可能とする観点を捉えること、②子育て家庭支援における「地域支援」の特質を捉えることを目的として、2016年度~2018 年度まで継続的に行うことを計画している。2016年度は、先駆的実践事例を分析するためのプレ調査と位置づけ、先駆的な実践の従事者を選定し実施することを計画していたが、2017年度に実施する方がより効果的であると考えられた。理由は、国内のヒアリング調査は従事者と地域支援の協働・連携対象者の双方に調査を依頼し、子育て家庭を対象とした「地域支援」の援助の作用を把握することを目的としているためである。事例検討会の結果を踏まえ、ヒアリング調査を実施することで、子育て家庭と地域資源の関係の変化に対する援助者の働きの効果がより明確に把握されると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は、国内外で地域支援を含めた子育て家庭支援に取り組む施設のヒアリング調査を行う。国内の先駆的実践のヒアリング調査は、事例分析より得た援助の構成要素や機能の結果を精査することを目的として行う。また、他領域の「地域支援」の実態と本研究の事例分析の結果の比較検討を経て、子育て家庭を中心とした「地域支援」の特質と固有性を把握する。調査対象は、地域子育て支援拠点事業や利用者支援事業基本型に取り組む施設の中で、特に「地域支援」に先駆的に取り組む施設を6か所抽出する。抽出の際には、運営主体、地域、経験年数を考慮する。また、ヒアリングは、構造的な分析の観点を得るため、子育て家庭を対象とした「地域支援」の援助の作用を把握することを目的として、従事者と地域支援の協働・連携対象者の双方に調査を依頼する。 海外の先駆的実践の視察 ベルギーのCentre for Innovation in the Early Years (VBJK)やDeSLOEPの子育て家庭のインクルージブな取り組みを視察する。子育て家庭支援における「地域支援」に関わる報告書の収集と関係者へのインタビューを行いCommunity-Based-Practice の捉え方、その概念に基づく活動と、援助機能及び効果について把握する。視察には、北米のソーシャルキャピタルに貢献している子育て支援の有効性について詳しい分担研究者の倉石哲也が実施し、北米との比較を踏まえベルギーの取り組みの特性を捉える。
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Causes of Carryover |
2016年度は、先駆的実践事例を分析するためのプレ調査と位置づけ、先駆的な実践の従事者を選定し、実施することを計画していたが、2017年度に実施する方がより効果的であると考えられた。そのため、旅費と謝金に未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度に国内の先駆的実践を対象とし、①「地域支援」の構造的な分析を可能とする観点を捉えること、②子育て家庭支援における「地域支援」の特質を捉えることを目的として、先駆的な実践の従事者を先行研究から6か所選定する(研究協力者以外)。選定の際には、運営主体、地域、従事者の特性等の偏重しないよう考慮し、北海道、青森、沖縄、新潟、九州、関西の6か所を選定した。費用としては、研究申請当初のとおり、旅費とヒアリング調査謝礼費用に充当する。
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