2019 Fiscal Year Research-status Report
マインドフルネスに基づくソーシャルワーク専門職エンパワメント・プログラムの開発
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16K04226
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
池埜 聡 関西学院大学, 人間福祉学部, 教授 (10319816)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マインドフルネス / ソーシャルワーク / 援助関係 / エンパワメント / ストレス低減 / 社会正義 / 社会福祉 / 価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、ソーシャルワーク専門職のストレス低減を超えたソーシャルワークの価値の体現に資するマインドフルネスのあり方に焦点を当てた論文出版(2本)、研究機関での研究発表、学会発表、実践応用のための研究会の構築と推進を達成した。論文2本は欧米において近年高まっている個人化・心理化されたマインドフルネスへの批判を整理し、ソーシャルワークの価値基盤である社会正義(social justice)の実現につながる新たなマインドフルネスの理論及び実践方法を提示した。それは「エンゲージド・マインドフルネス(Engaged Mindfulness)」あるいは「第2世代マインドフルネス」として表され、ソーシャルワーク実践への応用を可能にするマインドフルネスの姿を浮き彫りにすることができた。 上記の発信に加え、本研究で培われた重層的にソーシャルワーク専門職をエンパワーしていく新たなマインドフルネスの実践応用の可能性を確かめるため、マインドフルネスをソーシャルワーク実践に取り入れている医療ソーシャルワーカーのグループと協働し、九州マインドフル医療ソーシャルワーク研究会(KM-MSW研究会)を構築した。月1回4時間、計4回の研究会を実施。研究会では、多様なマインドフルネス・プログラムを展開しながら、約20名のソーシャルワーカーを含む医療専門職とマインドフルネスを日常に取り入れているがんサバイバー、精神疾患から職場復帰した職員といった当事者が互いにマインドフルネスによる多次元の効果を議論する場へと発展した。国内のソーシャルワーク実践の枠組みでマインドフルネスの応用を試みている機関は皆無に近く、本研究会で検討された内容を記録し、ソーシャルワークの価値に資するマインドフルネスの実際とその方法論がソーシャルワーカーをエンパワメントしていくダイナミズムについての豊富な情報を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度に米国UCLA医学部・Mindful Awareness Research Centerに拠点を起き、急速に変容するマインドフルネスの動向に接することで、ストレス低減や二次受傷の回避のみならずソーシャルワークの価値を踏まえたマインドフルネスを構築することで福祉現場のソーシャルワーカーをエンパワメントしていく必然に迫られた。それは、関係性マインドフルネス(relational mindfulness)、コンパッションに根ざすグループ形成(サンガ形成)、マインドフルネスとソーシャル・アクションの連動を考慮したマインドフルネス・アプローチの開発を意味する。この開発には、ソーシャルワークの価値の変容過程の詳細なレビュー、マインドフルネスの起源としてパーリ経典、念処経の本質的意味の読み解き、そして実践方法の改訂などに予想以上の時間を要した。 令和元年度は、この新たなマインドフルネスの開発とその成果の取りまとめと論文化、さらに国内でマインドフルネスをソーシャルワーク実践に応用している希少な機関との連携をもとに、発展させたマインドフルネスの応用可能性を確認する作業に費やされた。加えて新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の蔓延による推進中のKM-MSW研究会の中断や予定していた福島被災者に対するマインドフルネスによる支援の実情把握を目的としたフィールド・ワークの中止など予想外の業務負担が重なった。その結果、集積された成果を元にした書籍出版及びマインドフルネスに基づくソーシャルワーク専門職エンパワメント・プログラム(MB-SWEP)の最終的な構築とホームページ上の発信、また兵庫県社会福祉士会など関係団体との連携を元にしたMB-SWEPのワークショップや研修会の実施など、当初予定していた推進方策が今後の課題となった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、研究最終年度として以下の項目を設定して研究を推進する。 1. 令和元年にCOVID-19によって中断されていたKM-MSW研究会の継続とその成果の論文出版を行う。研究会の内容とともに、研究会で明らかになったソーシャルワーク実践現場でのマインドフルネスの重層的な効果を抽出し、ソーシャルワーカーのエンパワメントの視点から論文化を目指す。具体的には、援助者・クライエント双方のマインドフルネス経験がもたらした困難事例のソーシャルワーク実践過程、がんサバイバーのグループ・ワークを通じたソーシャルワーカーによる心理社会的支援においてのマインドフルネスの役割が挙げられる。 2. COVID-19がもたらす新たな差別、偏見に対するソーシャルワーク実践のあり方を考案していくために、本研究で培ったソーシャルワークの価値の体現に資するマインドフルネス方法論の応用可能性について論文化する。COVID-19による新たな心理社会問題へのアプローチを見通すことで、ソーシャルワーカーのエンパワメントにつながるマインドフルネスを明確化していく。 3. 上記2点を加え、これまで集積してきた研究を総括した「マインドフルネスに基づくSW専門職エンパワメント・プログラム(MB-SWEP)」をまとめ、ホームページ上でその方法論を公開する。 4. COVID-19によって延期された兵庫県社会福祉士会及びKM-MSW研究会との連携にもとづくMB-SWEPの研修会、ワークショップを開催していく。 5. 本研究の総括として、研究報告書の冊子をまとめ、SW専門職のエンパワメントに資するマインドフルネスの理論と方法を集約した書籍出版に向けた土台形成を行う。
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Causes of Carryover |
2020年2月以降に国内で顕在化した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、2020年3月中に予定していた福島県立医科大学及び別府医療センターでのフィールド調査及び研究会をやむなく延期する必要が生じたため、次年度使用額が生じた。 2020年度は、主に次の3項目について使用したい。それらは1)KM-MSW研究会の内容に伴う論文出版のため、検討会参加を目的とした旅費、会議費、テープ起こし費、2)COVID-19がもたらす新たな差別、偏見に対するマインドフルネス方法論を取り上げた論文出版のため、専門家からの助言を受けるための旅費及び謝金、テープ起こし費、資料のコピー費、文献費、そして3)研究総括を目的とした冊子作成費、となる。
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Research Products
(6 results)