2018 Fiscal Year Research-status Report
アイデンティティに基づく学習動機づけの形成支援に関する研究
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16K04298
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
伊田 勝憲 静岡大学, 教育学部, 准教授 (20399033)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 動機づけ / アイデンティティ / 内発的目標 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度から実施している高校生を対象とした質問紙調査が3年目となり,第1コホートの高校1年時から3年時までの縦断データが揃うとともに,第2・第3コホートを合わせた横断データも蓄積できていることにより,協力校におけるカリキュラム(学科・類型)による学習への動機づけ等の違いや同一学科にみるコホート差など,多角的な分析が可能になった。特徴的な結果としては,アイデンティティに基づく学習動機づけ(学習意欲の質)を測定する4項目の簡易な質問紙について,3年間の時間的な安定性(信頼性)とともに,年次進行に伴う変化の傾向を捉えている(3年次における進路選択との関係など)ことから妥当性についても確認された。 一方で,当初の計画にはなかった性別による違いが無視できない程度に見られることがわかり,有名大学や将来の収入を重視する「外発的目標」が3年間一貫して男子の方が有意に高いこと,そして3年次において女子の「模索」的な学習意欲(不安や不本意感を抱きながらも模索を続けて学習に取り組み続ける姿勢)に有意な低下(学年と性別の交互作用)が認められた。この点については,他の質問項目やカリキュラムの選択状況さらには進路決定状況との関連も予想されるため,追加の分析を行う中で要因を見極める必要があると考えられる。 また,大学生を対象とした教職科目の講義における調査を継続的に実施し,学期当初と学期末のそれぞれにおいて,アイデンティティ発達尺度得点と学習意欲得点(課題への価値希求及び価値評定)の間に中程度の有意な相関が見られた。また,授業通信を活用した学生との双方向的な意見交換とともに,講義内容及び将来の職業に関わる態度を測定する質問紙を開発し,計4項目のうち2項目について有意な変容が認められ,その変容とアイデンティティ及び学習意欲(課題への価値づけ)との間に一部関連が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高校生対象の調査については,3年間の縦断調査が計画に沿って進められ,データの蓄積は順調に進展している。また,その分析結果から,学年進行による変容の傾向や生徒一人ひとりに着目した変容パターンの分布の特徴なども明らかになりつつあり,アイデンティティ形成と学習意欲の質との関連から,アイデンティティに基づく学習動機づけの理論化に必要なエビデンスが得られてきている。ただし,分析段階で当初の計画に入っていなかった性別による効果を無視できない結果が見られたため,関連指標を追加した上で,さらなる分析による精査が必要な状況となっている。この点については,当初計画以上に調査が進展しているという見方もできなくはないが,性別によるキャリア選択の違いや過去の進学実績等の違いといった情報を踏まえて,当初計画に含めておくべき要因であったとも言えるため,進捗状況の区分としては「おおむね順調に進展している」と判断した。なお,この追加の分析等を行うために,研究期間を1年間延長することとなっている。 また,大学生対象の調査については,アイデンティティ発達と学習意欲との関係が学期内の縦断調査結果の分析により明確に見えてきたこと,加えて,対象となった講義の内容に関する態度変容との関連についても一部認められる結果が得られており,アイデンティティに基づく学習動機づけの形成を支援する授業実践のあり方など,発展的な研究に向けた知見を研究成果としてまとめることができる見通しであり,進捗状況の区分としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間を1年間延長し,特に高校生対象の調査を継続するとともに,これまでに蓄積したデータについても関連指標を追加した上で,さらなる分析による精査を行う。具体的には,アイデンティティ形成に関係の深い進路決定状況やキャリア発達に関する指標を取り上げ,学習意欲の質及びその変容プロセスとの関係について,性別による効果に留意しながら分析を進めたい。なお,追加の指標を研究に使用する上では,個人情報保護を含む研究倫理の観点から対象校に丁寧な説明を行うとともに,研究代表者の所属機関が変更になったことから,研究倫理審査等の必要な手続きについても慎重かつ迅速に進めることに留意する。その上で,研究成果をまとめ論文化することに取り組む。 また,大学生対象の調査結果についても,アイデンティティ発達と学習意欲の質の関係を中心に引き続き分析を進めた上で,上記の高校生対象の調査結果の追加分析と合わせて,理論の精緻化を行うこととする。その際,高校生と同様に性別による影響を考慮する必要があるかどうか,対象学部や授業科目の特性を踏まえて検討しながら,アイデンティティに基づく学習動機づけについて高校生と大学生で可能な限り理論的に整合する一貫した説明を目指すこととする。 これらの調査結果をもとに,自律的動機づけ形成のデュアルプロセスモデルのさらなる精緻化を図るとともに,昨今の高大接続改革及びそれに伴う高校と大学それぞれでの授業改善等の取組等,最新の社会的動向を踏まえたニーズに留意しながら,授業実践や教材開発に資する具体的な提言や教育的示唆を引き出すことを目指して研究を進める。
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Research Products
(3 results)