2016 Fiscal Year Research-status Report
身体動作を用いたマルチモーダルな教室談話分析の開発と応用
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16K04304
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
松尾 剛 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (50525582)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 協同学習 / 身体動作 / 感情・情動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,身体動作を指標として,対話を通じた学びの質を評価する方法の開発を目的としたものである。本年度の成果は下記の通りである。 (1)説明活動中の身体動作に関する探索的研究:他者に何かを説明する際の話し手の身体動作が,聞き手が話し手に抱く印象や,説明内容に対する聞き手と話し手の記憶などと,どのように関連するかを検討した。大学生52名(26ペア)を対象とした実験を実施した。実験参加者の一方には話し手の役割を,もう一方に聞き手の役割を与え,話し手は聞き手に対して10個の単語を説明するように求めた。その際に,説明中の話し手の身体動作について,25箇所の関節の座標を30フレーム/秒で測定した。また,話し手に対する聞き手の印象や,説明された10個の単語に関する記憶課題も実施した。これらの変数間の関係性について分析を行った結果,体幹部の動きと話し手の記憶成績との間に正の相関関係が示された。また,右肘や左肘の動きと柔和性という印象の間に負の相関関係が示された。今後は,説明の内容(言いよどみや,次の説明を考える間などを含む)を考慮しながら,より精緻なデータ分析を行う計画である。 (2)協同学習中に経験する感情についての研究:大学生211名を対象として,協同学習中に経験する感情と,協同学習への積極的参加行動との関連を検討した。分析の結果,協同学習の過程において,ポジティブな感情とネガティブな感情の両方を強く感じるタイプ,どちらか一方を特に強く感じるタイプ,どちらもあまり強くは感じないタイプなど,多様なタイプの学生が存在していることが示唆された。また,ポジティブな感情とネガティブな感情の両方をある程度感じていると回答した学生が,話し合いへの積極的参加行動について容易に遂行できると認識していることが示された。今後はこのような感情の状態と身体動作の関連などについても検討を行う計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,身体動作を指標として対話を通じた学びの質を評価する方法の開発を目的としたものである。この対話を通じた学びには,ピアでの協同学習や,教師と児童・生徒による教授・学習場面ななどが含まれる。本年度は,大学生を対象とした実験を実施した。実験を通じて,説明中の身体の動きを測定するための測定機器や,データ処理のためのプログラム,膨大なデータを処理するための作業ルーティンなどを構築することができた。この実験では,30フレーム/秒という身体動作に関する膨大なデータに加え,他者に何かを説明する際の発話データや,説明内容に関する記憶成績など,非常に豊かなデータを得ることができた。したがって,今後の研究遂行のための環境整備という点,また,研究のためのデータ取得という点の2点において当初の計画通りの成果が得られていると考える。 また,本研究では身体動作に注目するが,その際に協同学習中に学習者が経験する感情という変数にも注目したモデルを想定している。したがって,上記の研究と同時に,学生同士の協同学習場面や,学校での教授・学習場面において生じる感情が,話し合いへの参加や,教授行為に対して及ぼす影響などに関する調査を実施することができた。これらの成果は論文や学会発表などの形でまとめられている。これらの成果は,対話を通じた学びにおける身体動作の意味について解釈するための理論構築の基礎となる研究だと考えることができる。 実験によって得られたデータが膨大なため,その分析には時間を要している。そのため,現在でも追加の分析を行っている状況ではあるが,上記の点を踏まえて「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は他者への説明という状況に注目し,話し手の身体動作を分析対象とする実験を実施した。その結果,非常に豊かなデータを得ることができたが,十分に精緻な分析ができているとは言い難い。例えば同じ身体部位の動きであっても,説明を行っている時と,どのように説明するかを考えている時では,その機能は異なるといったことが想定される。先行研究の知見を踏まえると,例えば,説明中は他者に何かを伝えるために身体動作が用いられているのに対して,説明を考えている場面では自分の思考のリズムをとるために身体が動くといった可能性などが考えられる。そこで,説明者の発話分析と組み合わせながら,身体動作のデータを分析する必要がある。 また,対話を通じた学習という状況においては,話し手だけではなく,聞き手も非常に重要な役割を担っている。特に,学習者が話を聞くことを通じていかに学んでいるか,その過程を評価することは教育実践上,教授・学習心理学研究上,非常に重要な課題だと言える。しかし,話し手とは異なり,聞き手の学習過程については,発話を指標とすることが困難である。そのため,どのような指標が分析や評価のための有効な手がかりとなりうるのか,という点が十分に明らかにされているわけではない。そのような点で,聞き手の学習過程に注目した研究を行うことは,身体動作によって対話を通じた学びを評価しようとする本研究に対して求められる大きな課題の1つである。そこで,聞き手の学習過程に注目した研究を行う計画である。その際には,対話を通じた学習において生じる感情との関連性についても検討を行う計画であり,内省報告はもちろん,心拍数などの整理指標などの活用を考えている。実験の文脈についても,三者以上での対話場面や,知識や能力に違いのある二者間での対話場面など,様々な場面へと広げていきたいと考えている。
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Research Products
(2 results)