2017 Fiscal Year Research-status Report
身体動作を用いたマルチモーダルな教室談話分析の開発と応用
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16K04304
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
松尾 剛 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (50525582)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 身体動作 / 説明 / 協同学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,身体動作を指標として,対話を通じた学びの質を評価する方法の開発を目的としたものである。本年度は説明の内容や状況と身体動作との関連性について検討した。 昨年度の研究において,大学生2名1組の38ペア(男性24 名,女性52名,平均年齢20.1 歳)を対象に「なさめん」「こふうり」などといった架空の単語10 語の意味を自由に想像して,聞き手役の学生に説明するという課題を実施していた。その際に,説明中の身体の動きを25 箇所の関節座標(25 箇所)を30 フレーム/秒で取得した(1 名につき,30 フレーム×60 秒×10 分=18000 程度の測定値)。本年度はこのデータについて,説明の内容や状況と身体の動きとの関連性を検討した。 説明語の記憶課題の成績を基準に3組のペアを分析対象とした。3名の説明者の説明内容をビデオで確認しながら,身体動作の各フレームを,①「課題の提示」(実験者が課題を示してから,話し手が前を向いて,聞き手に何かを言い始めるまで),②「説明」(独り言やつぶやきなどを含まない,ある程度まとまった説明を行なっている),③「言いよどみ」(うまく言葉にできていない説明や独り言,2 秒以上の沈黙など)のいずれかの状況に分類した。 説明者ごとに,説明の内容と関節の移動距離の関連を分析した結果,3名に共通して,肩の中心部の動きにおいて説明内容による違いが見られた。ただし,関連性のあり方については個人ごとに異なり,2名の説明者は「説明」の際に動きが大きくなるが,残りの1名は「課題提示」において最も動きが大きくなることが示された。記憶成績との関連性については,1名の説明者だけに有意な相関係数が示され,「説明」の際の肩の中心部の動きは記憶成績と正の相関を示した(r=.71)が「言いよどみ」の際の動きは記憶成績と負の相関を示していた(r=-0.76)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に課題として挙げていた,説明の内容や状況との関連性についての検討を行うことができた。また,その成果は論文や学会発表として報告をしている。ただし,分析対象となるデータが膨大であるにも関わらず,十分な分析のスキルを有した研究補助者のアルバイトを確保することが困難であり,研究代表者が一人で分析の作業に着手することになったため,まずは,特に違いが大きいと考えられる3名に絞り込んで分析した。サンプルサイズが小さいため,知見の一般化には限界があると考えられる。 本年度の成果を次年度に向けての探索的な研究として位置づけると,同じ身体の動きであっても個人によってその機能が異なる可能性があり,例えば「言いよどみ」の際に生じる身体の動きについても,それが,理解の困難さを示している場合と,積極的に説明を構成しようとすることを通じて理解の促進を示す場合がある,といったような可能性が示されており,検討すべき重要な課題についての示唆を得ることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では以下の点について推進をしたいと計画している。 ①分析対象を増やすことにより,本年度の研究から得られた示唆について,より一般化可能な知見を得たいと考える。 ②身体動作に注目することの意義は「沈黙」や「言いよどみ」といった,明確な言語的反応が得られない状況における学習者の認知過程について検討するための手がかりが得られることにあると考える。そのため,「沈黙」や「言いよどみ」が生じている箇所について,その後に,説明の精緻化が後続するような「沈黙」や「言いよどみ」(=思考のための間)と,説明の進展にはつながらなかったような「沈黙」や「言いよどみ」(=混乱の間)に区別をするなどして,より詳細な分析を行う。 ③聞き手の身体動作に注目した分析を行う。例えば,聞き手の身体動作と理解の関係者,聞き手の身体動作が説明者の説明内容や,理解に与える影響などについて検討を行う。
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Research Products
(1 results)