2016 Fiscal Year Research-status Report
教科としての道徳における指導と評価の方法の確立を目指した学習モデルの開発
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16K04305
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
假屋園 昭彦 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 教授 (30274674)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 道徳 / 授業デザイン / 道徳的価値 / 自問自答型発問 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,教科としての道徳における指導と評価の学習モデル開発を目的とした。28年度は,指導モデルとしての授業デザイン開発を行った。これらの研究を,第1研究から第3研究として3本の論文にまとめた。論文は現在印刷中である。以下に研究の概要を示す。 第1研究の概要は以下のとおりである。本研究では,道徳的判断力の育成を目指した価値規準発見型授業デザインの開発とその検証を行った。具体的には,人間が道徳的判断を行う過程を反映した授業デザインを開発した。そしてこの授業デザインで実際に公立小学校で検証授業を行い,本授業デザインが学校現場で実践可能であることを確認した。 人間が道徳的判断を行う過程は,寛容,勇気といった道徳的価値を実践するか否かを判断する過程になる。判断する際には,判断の規準が必要である。そこで本デザインでは,児童に複数の判断規準を示し,実践するか否かをどの判断規準で行うかという判断規準を選択してもらった。この活動によって児童は人間の道徳的判断過程を実体験することができる。さらに自分が価値規準を選択する活動は,自分自身の価値観を自分で明確化することになる。この自分の価値観を自分で明確化する活動が,自己を見つめる活動になる。 さらに本授業デザインの最大の特徴は,教科としての道徳の最大の目標である「道徳的価値の理解」を授業で扱う方法を開発した点にある。道徳的価値の意味は,道徳的価値を実践するか否かの規準に現れるのである。したがってこの規準を授業で考えることは必然的に道徳的価値の理解につながるのである。 第2研究では,第1研究で実施した価値規準発見型授業を用いて,授業効果の査定方法を開発した。第3研究では,道徳の教科化に際して提案された問題解決的学習の実践のための授業デザインとして自問自答型発問を提案した。以上のように28年度は主として授業で実践可能な指導モデルを開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である28年度は,学習モデルの中の指導モデルを開発することが目的であった。当初の予定通り,指導モデルとして道徳的価値の価値規準発見型授業および自問自答型発問という2種類の指導モデルを開発した。そして価値規準発見型授業は,複数の公立小学校で検証授業を行い,学校現場で実践可能であることを検証した。 さらに価値規準発見型授業を用いて授業効果の査定方法を開発した。これは道徳における学習効果を客観的に査定する方法である。これまで道徳の授業は,その学習効果を客観的に査定する方法がなかった。本研究では,児童が,道徳的価値を実践するか否かを判断する際に選択する価値規準の変容を調べるという方法を用いる。この方法を用いることによって,児童の価値観の変容を捉えることができる。 価値規準発見型授業の特徴は汎用性の高さにある。すなわち,この授業デザインは多くの道徳的価値(学習指導要領中の内容項目)に用いることができる。またバリエーションを多く作ることができる。例えば,価値規準を児童自身に考えさせ,発見させる段階から始めることもできるし,価値規準は教師が示し,児童は議論をとおして規準の選択活動だけをさせてもよい。児童の実態に合わせた実施が可能である。 次に自問自答型発問という概念を提案したことである。自問自答型発問とは,道徳的,倫理的な論理を含む発問である。本研究では発問の機能を以下のように捉えている。すなわち,児童は発問に回答するという経験をとおして発問に含まれる論理を習得する。そして習得した論理を,授業の後,日常生活に持ち帰り,自問自答を続ける。これらの過程をとおして児童は,道徳的,倫理的な物事の見方を習得するのである。これが道徳における学習のあり方である。このような指導モデルを開発したことにより,現在,研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下のような計画で進める予定である。現時点で,自問自答型発問を導入した授業デザインを開発した。そこで今後は,開発した授業デザインの検証授業を実施し,学校現場で実践可能であることを証明する。次に学習指導要領中に示されている個々の道徳的価値についての自問自答型発問を開発する。そしてできるだけ多くの道徳的価値で自問自答型発問を導入した授業が可能になることを目指す。 次に2年次からは学習効果を査定する方法を開発する。査定方法とはすなわち評価である。教科化に際し,学校現場で問題になっているのは評価の方法である。文科省の方針によれば,評価は数値で行わず,文章による個人内評価で行うとされている。この際問題になるのは,個人内評価を行うための根拠資料がどれだけあるのか,という点である。根拠資料が豊富であれば緻密な評価が可能である。逆に根拠資料が浅薄であれば雑な評価になる。そこで今後は緻密な評価を可能にするためにできるだけ多くの根拠資料を得るための方法を開発する。 評価としての学習効果を査定する方法はすでに1年次に価値規準発見型授業において開発したが,さらに別のタイプの査定方法を開発する。これはワークシートを活用する方法である。現在も道徳の時間にワークシートは使われている。しかし現状のワークシートは雑な構成になっており,目指すところが曖昧である。本研究では,ワークシートを児童の授業中の思考過程を反映し,可視化する機能をもつ媒体であると位置づける。そしてワークシートの構成を緻密にし,児童の思考過程を辿ることが可能な内容にする。このような内容にすることによって,児童の思考過程の軌跡を辿ることが可能になる。このワークシートの蓄積によって児童の思考過程の変化を把握できる。 2年次は評価のための根拠資料として,児童の思考過程の軌跡を把握できるワークシートの開発を行うことを主目的とする。
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