2016 Fiscal Year Research-status Report
「第2の精神年齢」を測定する ーワーキングメモリ検査としての乱数生成課題―
Project/Area Number |
16K04312
|
Research Institution | Asia University |
Principal Investigator |
板垣 文彦 亜細亜大学, 国際関係学部, 教授 (10203077)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀 玄 亜細亜大学, 経営学部, 教授 (60322658) [Withdrawn]
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 精神年齢 / 乱数生成課題 / 創造性 / ワーキングメモリ / 視空間スケッチパッド / 自我同一性 |
Outline of Annual Research Achievements |
この1年間に過去の2つの発表の論文化と3つの研究について学会発表を行った。前者は乱数生成課題によりワーキングメモリを評価する理論的側面を再考したものであり、ここでは研究の中心となる後者の1つを紹介する。 「乱数生成課題は青年期の精神年齢尺度になりうるか?」では、前頭葉機能の発達に関連した青年期後期の思考機能の変化が大学4年間の短い期間の年齢差として乱数生成課題に反映されるかどうかを検討するためデータに基づく評価軸の構成を試みた。その結果、大学生の1,2歳の差に関しては安定した軸構造が得られなかったが、大学1年と4年のデータの比較に基づく軸構造での評価値は、自我同一性尺度による自我発達と有意な相関を示した。この研究での予想外の結果は、大学生データのみで構成したこの年齢軸がワーキングメモリ容量を減少させる方向への変化を示すことである。乱数生成課題において評価する側面が一般的な意味でワーキングメモリ特性とみなせるかどうかについては議論の余地が残されているが、上級生において生成速度が速まることは、本来、解決に時間のかかる課題をあたかも単純な課題のように取り扱っていることを意味している。こうなると、この問題は大学における教育が初等教育から延々と続く「刺激ー反応」による連合理論の学習の延長上にあり、思考能力の質的変換が生じていないことを意味しているのかもしれない。それは思考力を最大限に必要とする非定型課題に適合しない方略を利用して解決に至らない状態を放置しておくことに等しい。また、本研究は、大学4年生よりも前の大学生の1,2年あるいは高校時代にワーキングメモリの容量が最大化する時期があることを示唆しており、今後の研究の発展的展開が期待できる内容である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
乱数生成課題をインターネット実験として簡便化する方法として、コンピュータではなくタブレットを用いる方法を採用する決定を行った。このため、今年度の研究分担者にはこれからの研究に必要な簡易脳波計測器の分析ソフトの作成に専念してもらい、了解を得て、次年度よりタブレット端末によるインターネット実験の開発に精通した研究分担者に変更を行った。 このインターネット実験システムによって、中・高性を対象にしたデータを収集するための研究協力者を募り、データ収集の遅れを取り戻す予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、高校生から大学生までの思考発達の変化を評価するために、乱数生成課題に関する大量データの蓄積を優先事項とする。乱数生課題実験を自動化するインターネット実験システムの構築には、画像データの転送と音声認識の2つのシステムからなるが、前期中は大学生を対象に学内で行なう個別実験の効率化を図るために音声認識システムの運用を先行させる。これにより今年度中に収集予定の半分である300データを蓄積し、思考発達軸の構成を行なう。前年度の研究成果として年齢の上昇に伴うワーキングメモリ容量の低下が指摘されたことから、それが意味することを確認するため半構造化面接を実験に組み込み、乱数生成課題という非定型課題によって測定する精神年齢の特徴を確認する。 また、ワーキングメモリの活動が最大化する時期が、高校時代を含む青年期の早い時期にあることが予想されることから、高校・中学の実験協力体制を構築する。後期に準備ができるインターネット実験システムによる実験開始を予定している。また、外部で実験を行うための簡易ブースは5月に納入されるが、その音響特性と強度に関して改良を行なう。
|
Causes of Carryover |
15万の経費の未使用は、20万の人件費の内6万しか使用していなかったことによる。今年度は、乱数生成課題実験の実施時期を、大学生の発達に関する質問紙のデータ収集時期に合わせた実験を企画したため、短期間に集中して多くのデータを収集する必要があった。しかし、年末、年度末の短い時間に集中して実験補助者を雇用できなかったことで実験日程が少なかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は実験時期を前期と後期に分けて学内での実験を分散して行なうことで、昨年度未使用の人件費を利用して実験補助者の定期的雇用を図り、データ収集を強化する。それ以外の経費は当初の計画通りであり、インターネット実験システムの構築とそれを利用した学外の研究協力校への出張と予定している。
|