2016 Fiscal Year Research-status Report
アクティブラーニング型授業モデルの開発と異校種接続:協同学習を基盤として
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16K04332
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
安永 悟 久留米大学, 文学部, 教授 (60182341)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 協同学習 / LTD話し合い学習法 / LTD基盤型授業モデル / LTD based PBL / 協同認識尺度 / 高大接続 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2016年度、次の4点を主な目的として実施した。①効果的なアクティブラーニング(AL)型授業の実現を意図したLTD基盤型授業モデル(LTDモデル)の精緻化。②LTDモデルに沿った授業づくりと、その授業づくりを通した異校種における教育の接続についての検討。③効果的なAL型授業の実現に必要となる協同学習に関する教員を対象とした研修会の開催。④協同学習の成果の一部を測定する協同認識尺度の開発。 ①に関しては、先に提案したLTDモデルの精緻化を行い、教育関係の雑誌や学会で発表を重ねてきた。②LTDモデルに沿った授業づくりとして、高校の数学科および国語科の授業、大学の初年次教育、専門科目の授業(教育心理学、心理インターンシップ)および専門演習で試みた。高校数学科では協同学習に基づく授業展開を、高校国語科の授業ではLTDを用いた読解の授業を、それぞれ前年度に引き続き検討してきた。また2016年度は「LTD based PBL」を考案して、その有効性を歯学部生を対象に実践した。その結果、LTDモデルに沿ったPBLの展開が有効であることが実証された。③の教員対象の研修会として、2016年度は「授業づくり研究会」(3回)、「協同教育フェスタ」、および「協同学習ワークショップ in 熊本」を開催した。これらの研修には小学校から大学までの教員が多数参加した。加えて、LTD based PBLを2017年度に導入する学部教員に対して、通算13時間の研修を行った。それ以外にも教師に対する研修は全国各地で、さまざまな形式で開催した。最後に④協同学習の成果を測定する目的に協同認識尺度を開発した。本尺度は長濱ら(2009)が開発した協同作業認識尺度を改良したものであり、4因子(仲間尊重・自己貢献・個人志向・互恵懸念)、22項目、5件法で構成されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度予定していた研究目的を概ね実現できたので、自己評価として「概ね良好」が妥当であると判断している。主な理由は以下の通りである。 本研究で提案しているLTD基盤型授業モデル(LTDモデル)を初年次教育科目で実践し、LTDモデルによる授業計画および実践方法を改善できた。その内容を冊子(安永悟・江村里奈・浅野良輔・須藤文, 2017)や雑誌(安永, 2017)で公表した。また、LTDモデルにそった高校国語科の指導(安永・岡田, 2016)、看護学生を対象としたエッセイ作成指導(須藤・安永, 2016)、教職課程における小論文作成および集団面接の指導(須藤・安永, 2016)など授業づくりを展開できた。さらに、長田・安永(2017)は、LTD based PBLを考案し、歯科大学生を対象に実施した。LTD based PBLは従来のPBLを実施する前に、LTDモデルの基礎段階に沿って教育を行い、PBLで提示される学習課題から学習項目を抽出する際、LTDを用いる点が特徴となる。LTDモデルの基礎段階で獲得した協同学習の基本的な考え方と技法がPBLの学習成果を高めることが認められた。 協同学習の成果を測定する一つの手段として、協同認識尺度を開発できた(増井・安永, 2016a, b)。従来使用してきた「協同作業認識尺度」を改良して4因子(仲間尊重・自己貢献・個人志向・互恵懸念)、22項目、5件法で構成される「協同認識尺度」を確定することが出来た。この尺度の開発により、いわゆる切磋琢磨と表現される協同学習が求める協同についての認識を測定することができるようになった。 教員に対する協同学習の研修は順調に進んでおり、所属大学を会場とした研修会だけでも延べ200名を越える参加者があった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の最も大きな目標は、2016年度に開発した LTD based PBL (歯学版)を改善し、その有効性を認知面・態度面・技能面から検証することである。まず、歯学部生を対象とした2016年度の実践(歯学版)を振り返り、改善を加えて2017年度も実施する。その際、LTD based PBL(歯学版)の有効性を認知・態度・技能の描く側面から測定し、前年度の実践例、および従来型の実践例と比較検討する。同時に、2017年度実践中の医学部生を対象としたLTD based PBL(医学版)を、歯学版と比較検討する。両方式は基本的にはLTDモデルに沿っているが、PBLの実施方法が異なる。歯学版と医学版は、実践している大学がこれまでに培ってきた知見に基づいて計画されており、両者を比較検討することで、より望ましいLTD based PBL の構築を目指す。同様に、2016年度、「教育心理学」の授業で実践したLTD based TBL を精緻化して実践する。特に2017年度は教材として新聞記事の活用も考えている。 二番目の目標は、2016年度に開発した「協同認識尺度」を詳細に検討する。特に、中学校から大学生までの大規模なデータを、学校種や学校規模、学年、クラスを考慮した詳細な分析を行い、協同認識の発達的な変化を検討する。また、協同認識の地域差を手がかりに、協同認識の形成メカニズムの解明も試みる予定である。検討対象地として沖縄を考えている。 上記の2つの目標に加え、LTD基盤型授業モデルによる高大接続を中核に据えた研究を引き続き展開する。また、教員を対象と研修も例年通り開催する。
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Causes of Carryover |
今回、差額が生じた原因は多岐にわたる。なかでも大きかったのは人件費・謝金の支出である。2016年度当初から、協同の認識を測定する尺度開発に関して、大規模な調査を行った。対象は、中学校3校・高校2校および看護学校1校の全学年、および専門学校2校と1大学のデータを4月から処理せざるを得なかった。その際に、多くのアルバイト生を雇い入れたが、時期的に科学研究費からの支出が難しく、個人研究費から支出した。 加えて、研究に関連して予定外のおおきな展開があり、研究活動のスケジュールを大幅に変更したことも影響している。LTD基盤型授業モデルによる授業改善・教育改革の支援要請があり、それに対応するために、活動スケジュールを変更した。そのために、例えば、年度末に予定していた研究関係者を集めての研究会を開催できなかったことも原因の一つと考える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究初年度であった2016年度、予定外の大きな展開があり、当初の研究計画を再度検討する必要が生じた。その再検討も2016年度末までに終了し、2017年度以降の研究計画を見直すことができた。そのために、今後の予算支出の計画も明確になり、今年度は計画的に予算を執行できる見通しがたった。
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Research Products
(8 results)